※こちらの記事は弁護士が書いています。
交通事故という言葉を聞くと、ついつい自動車や原付・バイクの事故だけを連想してしまいがちです。
しかし、自転車の事故も交通事故であり、近年は自転車と歩行者との接触事故が増加してきており、中には自転車事故の加害者に対し高額の損害賠償を命じた裁判例もあります。
そして、こうした社会情勢を背景として、現在、東京都、大阪府、福岡県などのいくつかの自治体では、自動車と同じように自転車に乗る場合の保険加入が義務づけられています。
このように自転車事故は自動車事故と同じ交通事故であり、自転車事故を起こしてしまったときには、適切な対応をしなければ思わぬ不利益を被ることがあります。
そこで、今回は自転車に乗っていて歩行者と接触事故を起こしてしまった場合の対応について詳しく説明します。
自転車で歩行者と接触事故したら警察を呼ぶべき?
自動車事故を起こしてしまった場合には、たとえ被害者にけがのない物損事故でも必ず警察に連絡しなければならないことは多くの方が知っていることと思います。
他方、自転車事故の場合には、警察を呼ばなくてもよいのではないかと考えている方がいるかもしれませんが、それは間違いです。
自転車は、道路交通法(以下「道交法」といいます。)上「軽車両」であり、車両の一種として扱われています(道交法2条1項11号の1)。
そして、自動車事故の場合と同様に、自転車で歩行者との接触事故を起こした場合には、①負傷者の救護義務、②道路上の危険防止措置義務、③警察への報告義務が発生します(道交法72条)。
ですから、自転車で歩行者と接触事故を起こした場合には、道交法上の義務として警察に連絡しなければならないのです。
自転車で歩行者と接触事故した場合の対処方法4個
■1. 負傷者を救護する
自転車との接触事故により歩行者が負傷した場合、加害者は負傷者を救護する法律上の義務を負います。
負傷の内容・程度により事故後の迅速な救護措置により重大な結果を回避できることもあるでしょう。
ですから、自転車で歩行者との接触事故を起こした場合には、まず最優先にすべきことは歩行者のけがの有無を確認し、けがをしている場合には、その救護のための措置を講じることです。
特に歩行者が転倒したりして大きなけがを負っているときには、救急車の出動を要請することも必要になるでしょう。
■2. 交通の危険を防止するための措置をとる
次に、自転車での歩行者との接触事故により道路の交通の危険を生じさせている場合にはそれを除去するための行動をしなければなりません。これも救護義務と同様に道交法上の義務になります。
たとえば、事故直後、自転車が道路上に倒れたままになっているなどしていれば、他の車両の通行との関係から第2の事故を招いてしまう危険があるため、安全確認を十分にした上、速やかに自転車を道路外に搬出するなどの措置を講じるようにしましょう。
■3. 警察に連絡する
自転車事故を起こした場合でも警察に連絡する義務があります。
後でも説明しますが、この警察への連絡は被害者にけがのない場合でも同様に発生する義務であることに注意しましょう。
警察に連絡することにより、事故の状況や損害の有無・程度など事故に関する情報は客観的に記録化されることになりますから、被害者の後の損害賠償請求に資することはもとより、逆に被害者から不当請求された場合の加害者側の対応に資することもあります。
自転車事故に限らないことですが、交通事故のトラブルが発生したとき重要になるのは事故に関する客観的証拠ですから、警察官の事故直後の事情聴取や写真撮影等は将来の民事のトラブルを回避する意味もあるのです。
■4. 保険会社に連絡する
最後は保険会社に対する連絡です。
自転車事故により被害者にけがを負わせたり、被害者の衣服や所持品を破損させてしまったりすれば、加害者である自転車の運転手は自動車事故と同様にその損害を賠償する責任を負うことになります。
このとき、自転車事故による損害の賠償について適用のある保険に加入している場合には保険会社による賠償対応のため必ず事故の発生を報告しなければなりません。
そもそも、自転車事故に適用される保険に加入しているのか分からない場合には、安易に無保険と判断することなく、落ち着いて、その点について確認するようにしましょう。
保険の名称としては「自転車保険」ではない場合でも、火災保険や生命保険などの保険内容の1つとして日常生活における自転車事故による損害の賠償を対象にしていることもありますから注意しましょう。
また、冒頭でも言及したように、現在はいくつかの自治体において自転車保険の加入が義務になっていますから、自転車の購入と同時に保険に加入しているケースもあるでしょうから、適宜、自転車を購入した販売店に保険加入の有無について確認すべき場合もあるでしょう。
軽い接触でぶつかった・かすった場合は?
自転車事故の場合、歩行者とのすれ違いざまの軽い接触などは軽微な事故であると考え何も対応することなく済ませてしまおうと考えがちです。
しかし、先にも説明したように、たとえ自転車の軽い接触事故でも道交法上警察に報告する義務がありますから、これを怠れば法律上の義務に違反することになります。
また、被害者は歩行者であるのに対し、自転車は車両ですから、加害者としては軽微な事故であると考えている場合でも、実際には歩行者がけがをしていることもありえます。
ですから、たとえ軽い接触でも、軽く考えず必ず歩行者のけがの有無を最優先に確認するようにしましょう。
さらに、事故直後には発見されなかった被害者のけがやモノの破損が、しばらくして見つかることもあります。
その意味でも、軽い接触事故でも、警察に事故を報告することは後のトラブルを未然に防ぐことにもつながります。
接触事故後に逃げる・立ち去るとひき逃げ?
自転車で歩行者との接触事故を起こしたとき、そのまま現場から逃げたり、立ち去ったりすることは絶対にやめましょう。
その理由の1つは、もしも歩行者が自転車との接触によりけがをしてしまっている場合、そのまま現場から逃げたり、立ち去った加害者は救護義務違反(ひき逃げ)を犯したことになり処罰の対象になるからです。
具体的には、自転車事故の場合、ひき逃げは1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せらる可能性があります(道交法72条)。
加えて、自転車の運転上の注意義務違反により歩行者にけがを負わせたこと自体、過失傷害罪などの犯罪行為に該当するため、ひき逃げの悪質性と相まって起訴された上、厳罰に処せられる危険があります。
また、仮に歩行者にけがのない場合でも、警察に事故を報告する義務に違反したことにはなりますから、やはり1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
接触事故で相手が怪我なしの場合は?
繰り返しの説明になりますが、たとえ自転車での接触事故により歩行者にけががなかった場合でも、道交法上、警察に事故を報告する義務が発生します。
たしかに、極めて軽微な接触事故で被害者の態度からも警察にいちいち報告するまでもない自転車事故というものはあるでしょう。
しかし、忘れてならないのは、それは形式的には犯罪行為であり、本来はすべての事故について警察に事故を報告する義務があるということです。
警察に事故を報告すれば、第三者による事故状況の見分、加害者及び被害者からの事情聴取の内容を記録化することになり、万が一、後にトラブルになったときでも、事故直後の警察官により作成された資料があるために適切な対処ができることもあるでしょう。
また、法律上の義務を果たして警察を呼んでいるのですから、そこで特に問題のない事故として処理されれば何の不安も残りません。
ですから、自転車での軽い接触事故で歩行者にけがのない場合でも、法律上の義務に従い警察を呼ぶことは加害者自身にとっても意味のあることといえます。
まとめ
近年、自転車と歩行者との接触事故が多発しており、中には裁判により加害者に対し高額の損害賠償が命じられた例もあります。
自転車と歩行者との接触事故は自動車事故の場合と比較して軽く考えてしまいがちです。しかし、自転車は道交法上「軽車両」として車両の一種として扱われており、接触事故を起こした場合には負傷者の救護義務、負傷者の有無に関わらず警察に対する報告義務があります。
もし、自転車での接触事故を起こし、何もせずそのまま現場から逃げたり、立ち去ったりすれば、確実に警察に対する報告義務違反となり、歩行者が負傷している場合には救護義務違反(ひき逃げ)となり、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
ですから、自転車で接触事故を起こしてしまったときには、そのまま逃げたり、立ち去ったりすることなく、警察に連絡をし、負傷者のいる場合には救護しましょう。
また、自転車の接触事故により歩行者にけがを負わせたり、歩行者の衣服や所持品を破損してしまったりしたときには、その損害を賠償する責任を負いますから、これに対応するための保険の加入の有無を確認し、加入している場合には直ちに保険会社に事故の報告をすることも忘れないようにしましょう。