「蛇足」という言葉をお聞きになったことがあると思います。「蛇足」は、結婚式の来賓の方の挨拶などで、「蛇足ながら、ひと言申し上げます」というフレーズで使われます。
謙遜しながら褒める言葉を付け加え、参加された方々とともに、祝福する内容となっています。メールなどで、「蛇足ですが」という表現は、追伸として使われています。「余談ですが」とか、「言い忘れましたが」など、念のためお知らせしたいような場合に使われています。
本記事では、「蛇足」の意味と由来、使い方など、ご紹介致します。
蛇足の意味とは?読み方は?
「蛇足」とは、「不必要なもの」、「余分なもの」を意味しています。読み方は、「だそく」と読みます。
蛇足という言葉の使用目的は以下です。
◯謙遜して褒めたたえるために使用する
結婚式などの挨拶で、「蛇足ながら、ひと言申し上げます」という言い回しで、相手に対する謙譲語として使うことができます。
◯話題の転換のために使用する
メールなどで、用件などを伝えた後に、「蛇足ですが」と付け加え、「そういえば、こんなことがありました」というような展開で使います。話題の転換に便利な言葉です。
◯本来の要件に追伸のような形で使用する
メールなどで、用件などを伝えた後に、「蛇足ですが」と付け加え、「念のため、申し上げますが」という確認のために使います。周知されている内容であるけれども、もし忘れていると、後で余分な手続きが発生するような場合に付け加えると、配慮が行き届いていると喜ばれます。
蛇足の由来・語源は?
「蛇足」の由来は、中国の故事成語です。
◯蛇足の由来
楚(紀元前3世紀頃)の国の話に「蛇足」のたとえ話があります。ある人が先祖を祀る儀式を行った時に、召使たちは酒を与えられました。
召使たちは相談しました。「数人が飲むには不足だが、一人で飲むには十分ある。地面に蛇を描き、一番先に描けた者が酒を飲むことにしよう」と決めました。
最初に描き上げた召使は、「まだ足を描くのに十分に余裕があるぞ」と言い、蛇の足を付けたしました。後から描き上げた召使が言いました。「蛇には足がない。だから、そなたの描いたのは蛇ではない」と言って、酒を奪い取り、飲んでしまいました。蛇に足を付けた男は酒を飲みそこないました。
◯蛇足の出典
この話の出典は「戦国策」(せんごくさく)です。前漢の劉向(りゅうきょう)が編纂しました。斉の国の話で、当時、斉は楚から攻撃を受けていました。
「なんとか楚の進軍を止められないだろうか」と君主から依頼を受けた陳軫(ちんしん)が、楚の将軍に会いに行きました。楚の将軍は、勢いに乗って進軍しようとしましたが、陳軫から、「これ以上の進軍は蛇足である」という説得を受け、進軍を止めて楚に帰りました。
蛇足の類語・同義語
「蛇足」の類語・同義語はたくさんあります。
「不必要なもの」、「無駄なもの」、「余分なもの」などの事柄を、「蛇足」という言葉で置き換えることができます。しかし、相手の言葉に対して、「それは蛇足だ」と返した場合、漢語の語調としてきつい感じがします。
◯蛇足を使った時の言葉のニュアンス
上司から何かを指示されたり、指摘されたりしたときに、「それは蛇足です」と言葉を返した場合、「自分は完璧なのに、なぜ余分なことを言われなければならないのだろう」という内心は面白くないという感情が言葉に出てしまいます。
本人にとっては、「いらぬお世話だ」、「ありがた迷惑だ」などという不満の感情が出てしまうと、上司との関係がギクシャクしたものになるかもしれません。
面白くないと思う気持ちを抑えて、「ご心配には及びませんが、念のため配慮いたします」と答えておくのが無難です。
蛇足の例文・使い方
「蛇足」を使った例文・使い方には、次のような表現があります。
◯「くれぐれも体をご自愛くださいませ」と書くと、「体を」という言葉は蛇足になります。「ご自愛ください」という言葉に、「体を大切にする」という意味があるからです。
◯殺人事件の報道で、「同じ部屋に住んでいる男性がなんらかの事情を知っているとみて取り調べをしています」の「なんらかの事情を知っているとみて」は蛇足になります。
◯お寺の和尚さんに、「色即是空」を説明したら、褒められましたので、調子に乗って、「金儲け」の話をしたら、「それは蛇足だ」と笑われました。
◯禅宗の和尚さんに禅問答を挑み、「蛇足とは何か?」と問いかけたところ、「無用の用」と答えたので、「蛇の足は描くことができない」と反論したところ、「お前には手がないのか」と叱られました。
蛇足の漢文の意味・現代語訳内容・読み方
◯蛇足の話の原文
楚有祠者。賜其舎人巵酒。舎人相謂曰、「数人飲之不足。一人飲之有余。請画地為蛇先成者飲酒」 一人蛇先成。引酒且飲之。乃左手持巵、右手画蛇曰、「吾能為之足」 未成、一人之蛇成。奪其巵曰、「蛇固無足。子安能為之足」 遂飲其酒。為蛇足者、終亡其酒。
◯書き下し文
楚に祠(まつ)る者あり。其の舎人に巵酒を賜う。舎人相謂ひて曰く、「数人にて之を飲まば足らず、一人にて之を飲まば余り有り。請う地に画きて蛇を為り、先ず成る者酒を飲まん」と。一人の蛇先ず成る。酒を引きて且に之を飲まんとす。乃ち左手もて巵(し)を持ち、右手もて蛇を画きて曰く、「吾能く之が足を為る」と。未だならざるに、一人の蛇成る。其の巵(し)を奪いて曰く、「蛇固(もと)より足なし。子安(いずく)んぞ能く之が足を為らんや」と。遂に其の酒を飲む。蛇の足を為る者、終(つい)に其の酒を亡(うしな)うえり。
◯現代語訳(要約)
楚の国の祭祀を行う人が、召使に酒を与えました。召使たちは、「数人で飲むには少ないが、一人分なら十分だ。地面に蛇を描き、最初に描き上げた者がこの酒を飲むことにしよう」と言いました。
一人がまず蛇を描き上げ、「まだ足を描けるほど余裕があるぞ」と足を付けました。他の一人が完成し、「蛇にはもともと足がない。どうして、無い足が描けるというのだ」と酒を奪って飲んでしまいました。蛇の足を描いた者は、その酒を飲めませんでした。
蛇足の英語表現・例文
蛇足にあたる英単語は、次のような言葉があります。
superfluity:蛇足、余計なもの
redundancy:重複、冗語
uselessness:無益、無駄
unnecessary addition:不必要なもの
◯例文(1)
Though it is unnecessary addition, I would like to say it.
<日本語訳>
蛇足ながら、申し上げたいと思います。
◯例文(2)
He went on and said something unnecessary.
<日本語訳>
彼は余計な事を勝手に言いました。
◯例文(3)
You’re out of line.
<日本語訳>
言いすぎですよ。
(喧嘩をしているような時、的外れですという意味です)
◯例文(4)
You’re way out of line.
<日本語訳>
見当違いも甚だしい。
(wayの意味は、とんでもないくらい線から外れているという意味です)
◯例文(5)
昔からの言い回しとして、The fifth wheel of the coach (馬車の五番目の車輪)という表現があります。
<解説>
通常の昔からの馬車は4輪ですので、5番目の車輪は余分なものという意味になります。しかし、現在では、コンテナを運ぶトレーラーには連結部分に5番目のホイールと呼ばれる台座が設置され、けん引するトレーラー・ヘッドの部分との連結をスムーズにしています。
「蛇足ですが」の意味・例文・英語
「蛇足ですが」と言う場合は、「言うまでのことでもありませんが」という意味になります。「周知のことなので、無駄になるかもしれませが」というニュアンスです。
◯例文(1)
It may be needless to say, but proper social distancing should be 6 feet at least.
<語句>
social distancing:社会的距離
<日本語訳>
言うまでもないことですが、適切な社会的距離は少なくとも6フィート(約1.8メートル)であるべきです。
◯例文(2)
It goes without saying that the world economy is in great recession.
<語句>
It goes without saying that:~のことは言うまでもないことです
in recession:不況である
<日本語訳>
言うまでもないことですが、世界経済は大不況です。
◯例文(3)
I need not tell you that I love you.
<日本語訳>
あなたを愛していることは言うまでもないことです。
◯例文(4)
As you might already know the Big Bang Theory, the universe started with a small singularity, then inflated over 13.8 billion years to the cosmos that we know today.
<語句>
The Big Bang Theory:ビッグ・バン理論
small singularity:特異点
inflated over:膨張した
13.8 billion years:138億年
<日本語訳>
ビッグ・バン理論はご存じかもしれませんが、宇宙が小さな特異点から始まり、次の138億年にわたって今日私たちが知っている宇宙へと膨張しました。
「蛇足ながら」の意味・例文・英語
「蛇足ながら」という場合は、謙譲の意味を含み、「余計なことを言うようですが」という意味です。例えば、「蛇足ながら申し上げます」と言った後の内容は、一般的にはあまり目立たない長所や隠れためざましい活躍など、褒めることを目的とします。
また、本来の議題や趣旨から離れた事柄を一言添えることによって、その場を盛り上げる効果があります。
◯例文(1)
Probably this is not so informative, but I would like to say it.
<語句>
informative:知識を与える、参考になる
<日本語訳>
多分これはあまり参考になりませんが、申し上げたいと思います。
◯例文(2)
Though it is an unnecessary addition, he graduated from Harvard University with a master’s degree in Business Administration.
<日本語訳>
蛇足ながら、彼は経営修士号を取得してハーバード大学を卒業しました。
◯例文(3)
In addition to that, I would like to say something to all of you about his beautiful and heartwarming story.
<日本語訳>
加えて、彼の心温まる話について申し上げたいと思います。
(「蛇足ながら」を率直にIn addition to that で表すこともできます)
まとめ
蛇足の意味や使い方についてはいかがでしたか。「蛇足」という言葉を適切に使えば、有益と思われ感謝されますが、使いようを間違えると、本当に「蛇足」と思われて、徒労に終わります。
聞いている人にとって、本当に有益であるかどうか、真心がこもっているだろうか、十分に気を付けなければなりません。
また、ビジネスの世界では、メールなどの文章中に、「蛇足ですが」と入れる場合は、なるべく簡潔な短文で書くようにすると、受け取った人が、知っていることであれば、軽いリマインダーになります。知らないことであれば、送り手の気遣いに対して感謝されます。