「令月」という言葉を聞いたことはありますか?「令月」という言葉は、ふだんの日常生活の中では馴染みのない言葉ですが、慶び事などでよく使われています。
「令」のつく言葉には、例えば、「ご令嬢」、「ご令息」などがあります。どなたかのお嬢様、ご子息様と言う時に、相手を敬った言い方になります。「勅令」と言うと、天皇から直接下される命令です。
このように荘厳な響きを持った「令」の字のつく「令月」とは、どのような言葉なのでしょうか。「令月」の言葉の意味や由来、そしてどのような使い方をするか、この記事で詳しくご説明します。
令月の意味とは?いつ?季語?由来は?
令月の読み方は、「れいげつ」です。では意味や由来・語源について説明します。
◯令月の意味
令月とは、「めでたい月」、「何かを始めるのに縁起の良い月」などの意味があります。
◯季語としての意味
季語として、令月は陰暦2月を表します。
◯令月の由来
万葉集の梅の花の歌三十二首の序文の中に「令月」という言葉があります。
「梅花(うめのはな)の歌三十二首并せて序、天平二年正月十三日に、帥(そち)の老(おきな)の宅に萃(あつ)まりて、宴会を申(ひら)く、時に、初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)、気淑(きよ)く風(かぜ)和(やはら)ぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭(らん)は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かお)らす」
現代語訳:梅の花の歌32首の序(序文)。天平2年正月13日に、大伴旅人の家で、梅の花を見る会を催しました。おりしも初春のめでたい月に、空気は清らかに、風は穏やかに、梅は鏡の前で、白粉で化粧したように美しく、蘭は香り袋のように薫っています。
令月の類義語・同義語
「令月」の類義語・同義語は次の通りです。
◯「めでたい月」の意味の場合
「佳月」、「幸運月」、「嘉辰令月」などがあります。「嘉辰令月」は、「嘉」も「令」もめでたいという意味です。「辰」は日の意味ですので、「めでたい月日」の意味になります。
◯「2月」の意味の場合
「如月」、「梅見月」、「初花月」、「雪解月」、「仲春」、「木の芽月」などがあります。
◯「麗月」という場合
「美しく夜空に浮かぶ月」の意味です。この場合、「月」は、天体の月を意味しています。「麗」は美しいという意味です。月の美しさを極限まで表現したいときに、麗月と言います。人に感銘を与え、夜空にくっきりと光る月の美しさを表しています。
令月の使い方・例文
「令月」を使った例文は以下のようになります。「縁起の良い月」或いは「2月」の意味で使われています。
(1)令月という言葉は、上品で格式の高い言葉なので、これから更に広まっていくでしょう。
(2)初春の湯島天満宮では、令月にふさわしく、梅の花が美しく咲き、どこからか鶯の鳴き声も聞こえてきたのには感動しました。
(3)菅原道真は、大宰府で過ごした令月のある日、懐かしい梅の香りに誘われて庭に出てみると、梅の花が風に揺れながら可憐に咲いていました。
(4)最愛の彼女との結納の日は嘉辰令月を選びましたが、結婚式も嘉辰令月でないといけないと思い、式場を探しましたが、どこも仏滅しか空いていませんでした。
(5)思い立ったが吉日という事もあり、その日を嘉辰令月とし、禁煙を始めた結果、血圧が下がって来ました。
(6)手術の成功を祈って、嘉辰令月が良いと思い、暦を見て吉日大安の日を探して、その日に決めました。
令月の英語表現
令月の意味は、「めでたい月」、「何かを始めるのに良い月」という意味ですので、英語でそれに近い意味の単語は、auspicious という言葉です。
auspicious は、「縁起が良い」という意味です。将来の成功を表しています。ラテン語から派生した言葉で、もともとは古代ローマの占い師が鳥の飛び方で吉兆を占うという意味でした。「幸先の良い」とか「吉兆の」とか言う意味となります。
従って、令月を英語に直すと、
auspicious month となります。
(縁起の良い月)
使い方としては、
◎「It is an auspicious beginning for me!」
日本語訳:それは私にとって幸先が良い。
◎「Let’s welcome the New Year 2020 with this auspicious Japanese sake.」
日本語訳:さあ、新年2020年をこの縁起のよい日本酒で迎えましょう。
◎「This year is not an auspicious start for a four-year-old female Malayan tiger at the Bronx Zoo in New York because she has tested positive for the virus that causes COVID-19.」
日本語訳:今年はニューヨークのブロンクス動物園にいる4歳の雌のマレー虎にとって、良いスタートではありません。なぜなら彼女はCOVID-19を引き起こすウィルスの検査で陽性だったからです。
令月風和の意味と読み方は?
◯令月風和の意味
万葉集の中の令月風和の意味は、「初春のめでたい月に、清らかな気が漂い風は穏やかに吹いている」という意味です。「何かを始めるにも良い月、或いは縁起の良い月であり、風も和らぐ春らしい季節となった」というイメージを広げることもできます。
◯令月風和の読み方
令月風和は、「れいげつふうわ」と読みます。
◯令月風和の由来
「令月風和」は、万葉集の序文にある「初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)、気淑(きよ)く風(かぜ)和(やはら)ぎ」の中から、採られた言葉です。
万葉集の「令月風和」は、中国の「文選」の「仲春令月、時和し気清らかなり」を踏まえています。この文章は後漢の張衡の「帰田賦」(きでんふ)の一節です。
文選の成立は、530年頃、梁の照明太子簫統が編纂を行いました。当時の日本の文人たちは、中国の漢文や漢詩を手本として学びましたので、万葉集の言葉が文選と一致するのも当然の結果と言えます。
初春令月の意味と読み方は?
◯初春令月の意味
「初春令月」の意味は、「初春のめでたい月」という意味です。
◯初春令月の読み方
「初春令月」の読み方は、初春(しょしゅん)令月(れいげつ)と読みます。
「初春令月」は、万葉集の梅の花32首の序文にある言葉です。
■万葉集の言葉
「初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)、気淑(きよ)く風(かぜ)和(やはら)ぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭(らん)は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かお)らす」
■現代語訳
初春のめでたい月に、空気は清らかに、風は穏やかに、梅は鏡の前で、化粧したように美しく、蘭は香り袋のように薫っています。
この序文を書いたのは、山上憶良ではないかと言われています。彼は唐に渡り学問を研鑽し、筑前守となりましした。その後、大宰府の長官として赴任した大伴旅人と和歌を通じて交遊を深めました。山上憶良は、「文選」の「仲春令月」を踏まえて、万葉集に気品と風格と与えました。
まとめ
「令月」はいかがでしたか。「令月」は、中国の「文選」から万葉集に引き継がれ、歴史の重みを感じさせる言葉です。
新元号の「令和」も、同じ万葉集の序文から採られています。「令月」が2月という意味もあることから、天皇陛下の誕生日2月23日にも合致しています。
「万葉集」は、飛鳥時代から奈良時代の759年までの歌を収録した歌集です。4500首以上の和歌が集められています。当時、奈良の都では、東大寺の大仏が752年に完成し、聖武太上天皇や光明皇后をはじめ1万人を越える人々が参列し盛大な開眼供養が行われました。
「令月」をきっかけとして、天平文化に花開いた絢爛豪華な奈良の都の魅力を改めて味わってみてはいかがでしょうか。