「ありよりのあり」は、若者の一部で使われている言葉です。イエスかノーか、白か黒か、ありかなしかと質問したときにこういう答えが返ってきます。
最後に「あり」と付くのですから「なし」ではなさそうだ、というのはわかります。
では、単純な「あり」とはどう違うのでしょうか。なぜはっきりと、ありとはいわないのでしょうか。ありよりのありはどんな言葉か、解説します。
ありよりのありの意味とは?流行語・死語?
ありよりのありは「ものすごくありだと思う、激しくありだと思う」というのが本来の意味です。漢字で書けば「有り寄りの有り」です。
ありの上にさらに、ありの方に寄っている、ありを二回積み重ねているという気持ちを表しているのです。使われ始めたのは2016年頃からです。
ところがこの言い方は、まわりくどくて「単純にありと断言していない」ように見えることから「ぼんやりとありだと思う、どちらかと言えばありだと思う」という曖昧な意味として誤用されるようにもなりました。
誤用と書きましたが、完全な間違いとも言えません。この言葉自体が流行語と言えるほど多用されおらず、多くの人には認められていないからです。まだ意味が定まっていない言葉と言えます。
ところが、この言葉は早くも使われなくなってきているといいます。意味が定まる前に死語になるかもしれません。
ありよりのありの語源・由来は?元ネタは芸人?
先に述べたように、この言葉は2016年頃から使われ始めています。2015年10月から2016年3月まで、TBSテレビで深夜に放映されていた『アリよりのアリ〜理想の男女をビジュアル化〜』という番組があり、これが由来ではないかとも言われています。
番組のメインの出演者は、お笑いコンビ・くりぃむしちゅーの有田哲平でした。2016年には『ギャル語流行語大賞』で8位に入っています。
ありよりのありが若者たちに好まれる理由としては、さまざまな分析がなされています。ありよりのありが、「どちらかと言えばあり」という本来の意味とは違う意味で広まった理由として「若者は断定、断言することを好まず、曖昧にぼかした表現が好きだから」と分析する人もいます。
今の若者は強く主張してキツい感じになるのを好まない、というのです。しかしそれ以上に、ありの上にありを重ねる意味のなさ、馬鹿馬鹿しさに面白味を感じているのではないでしょうか。
ありよりのありは恋愛で結局ありの意味?
恋愛の場面で「ありよりのあり」と言われたら「どちらかと言うとあり」という意味だと考えられます。先に述べたように、ありよりのありは「ありを強調する」意味と、「ありを曖昧にする」意味と、両方で使われます。
しかし、恋愛の告白などのかなりシリアスな場面で、ありよりのありと言われたら「全くダメではないけど積極的ではない」という意味が多いでしょう。
例えば、男性が好きな女性に「俺ってあり?」と質問したとします。女性もその男性を好きなら、ありよりのありというような、ふざけた調子の言葉は選ばないでしょう。
もちろん、本当は好きなんだけれど照れてはっきり言えない、という場合もありますから、いつも必ずそうだとは言えません。
しかし、告白した相手にありよりのありと言われたら「全く脈がないわけでない」くらいに考えておいた方が、後でがっかりしないでしょう。
ありよりのありの例文・使い方
◯例文1
「デートに博物館ってあり?」
「ありあり、ありよりのあり、TDLより好き」
◯例文2
「今日のおかずどう?」
「ありよりのありよ!あなたは何やらせても上手ね」
◯例文3
「提案、今度の飲み会はコスプレで集まる」
「キャー素敵!ありよりのあり、超あり!」
例文1〜3は、ありを強調したありよりのありです。
◯例文4
「婚活パーティーどうだった?」
「ありよりのありってとこかな」
◯例文5
「これからお茶しない?」
「んー、ありよりのありかなあ」
◯例文6
「ありよりのありじゃ、わかんねえよ、はっきりした返事をくれよ」
「なし」
「聞くんじゃなかった」
◯例文7
「彼の返事はいつもありよりのありだね」
「決断力がないんだよ」
例文4〜7は曖昧なありよりのありです。
◯例文8
「君はありよりのありだ」
「あなたもありよりのありね」
意味がすれ違っている可能性があります。
ありよりのありの英語表現
ありよりのありを英語にすると、
⇒Yes, of course!
It’s definitely Yes!
No problem!
など、英語にしてしまうとはっきりと肯定表現をする言葉になってしまいます。日本語の表現の幅が広いことが分かりますね。
ありよりのなしの意味とは?
ありよりのなしは「完全になしではないけれど、どちらかというとなし」という意味です。なしだけれども、少しありの方に寄っている、というニュアンスです。
ありよりのありと、ありを二回重ねるよりは自然な日本語です。強い調子で否定したくないときに便利な言い方です。先に述べた、若者の好むぼかし表現といえます。
なし、と断わるよりは、ありよりのなし、と言った方が調子が柔らかくて、相手を傷付けないかもしれません。どちらにしても断る内容です。
なしよりのありの意味とは?
なしよりのありは「文句なくありではないけれど、どちらかというあり」という意味です。
ありだけれど、少しありの方に寄っている、メーターの針はありの方に振り切れてはいない、というニュアンスです。曖昧な意味のありよりのありとほとんど同じ意味になります。
若者がぼかした表現を好むのは「自分の好みや意見を人に押し付けたくない」という、謙虚な気持ちの他に、「後で間違いとわかったときに責任を取りたくない」というずるい気持ちもある、と言われています。この意見は、なしよりのありでしょうか。
なしよりのなしの意味とは?
なしよりのなしは「全くなし、問題にならない」という意味です。
なしを二回重ねています。ありよりのありの逆、という点から見れば「どちからというとなし」という曖昧な意味もあって良さそうですが、そういう例はあまり見当たらないようです。つまり、なしを強調する意味でのみ使用されます。
好ましさの順で並べると
ありよりのあり >> なしよりのあり >> ありよりのなし >> なしよりのなし
ということになります。
まとめ
ありよりのありのような若者のぼかした表現を、大人たちは批判しがちですが、実は今の大人たちだって若い頃はぼかし表現を使っていたのです。
例えば、語尾に「とか」「みたいな」「って感じ」と付けるのは、何十年も前に始まったことです。「何々系」という言い方もずいぶん前からあります。「私って猫系の人なの」虎みたいな人だったりします。大人たちは自分が若かった頃のことを忘れているのでしょう。
さらに言えば、世代間の対立というのも古くて新しい問題です。エジプトの古代文字ヒエログリフを解読したらこう書いてあったそうです「近ごろの若い者は……」。