※愛犬雑誌で編集者をしていたライターが書いています。
犬にとって“噛む”のは本能のひとつ。自分を守るため、家族や仲間を守るために噛んで攻撃をするのは、古来からの犬の習性です。しかし家庭で飼っている場合は「本能だから仕方ない」と噛み癖を放置しておくわけにはいきませんよね。
「なぜか愛犬の噛み癖が直らない……」、「しつけ方がわからず途方に暮れている」という飼い主さんも多いのではないでしょうか? 噛み癖を直したい、適切なトレーニング方法を知りたい、という方はぜひチェックしてみてください。
犬の本気噛み・攻撃噛みが治らない…怪我した…
愛犬の本気噛み・攻撃噛みが治らなくて、自分や家族が怪我をしてしまったり、友達や両親を家に呼びにくかったり、噛む習性が治らないと困りますよね。
そこで、犬が本気噛みをしてしまう理由を把握して、適切に対処すれば、今よりも状況は良くなるはずです。
対処方法まで詳しく説明しますので、ひとつずつ試してみてください。
甘噛みと本気噛みの違いは?
子犬のころはそんなに痛くなかったカミカミ……。飼い主さんにじゃれついて、まるで母犬にするようなものを「甘噛み」と言います。
犬も本気で噛んでいるわけではなく、ちょっとテンションが上がりいたずらで噛む、というイメージです。犬も力を加減しているので噛まれてもケガをすることはほとんどありません。
それに対して、「本気噛み」は、物を奪われたくない、自分を守りたい、相手を排除しようという恐怖心からくるもの。対象となる人がいる、というのが特徴です。犬が持つすべての力を込めて“噛む”のが、いわゆる本気噛み。
自衛本能が働いていて力を制御できず、飼い主のみならず他人までケガをさせてしまう可能性もあるため、放っておくわけにはいきません。本気噛みをする理由を探して、その原因を排除する必要があります。
犬が飼い主を本気で噛む原因・理由4個
では、犬が本気噛みをする背景には、何があるのでしょうか?よくあるケースから、その理由を探っていきましょう。
■1. ストレスが多く、満たされていない
犬も人間と同じように、ストレスを抱えると攻撃性が強くなり不満が態度に出ることがわかっています。「
もっと飼い主さんと触れ合いたい」「遊び足りない」などという欲求が満たされていなければ、興奮しやすくなったり、過敏に反応したりすることがあります。
■2. 飼い主との信頼関係が構築できていない
犬は飼い主さんとのパートナーシップをとても大切に感じる動物です。飼い主さんからコマンド(命令)を受けて応じる、という一連の行動に幸福感を覚えるともいわれています。
コマンドをクリアできたらご褒美(たとえばオヤツなど)をもらうということも大事なポイント。これを繰り返すことで、犬は自己肯定感を高めていくのです。
この基本となるパートナーシップができていないと、犬は徐々に不満を高め攻撃性が強くなっていきます。その結果、飼い主さんを噛むという行動に出る犬もいます。
■3. 恐怖体験によるトラウマや不安
たとえば人の手でたたかれた経験を持つ犬は、人の手に恐怖心を持っているでしょう。その嫌な記憶がよみがえってしまい恐怖を感じ、出された手を反射的に噛んでしまう……という可能性もあります。
犬は「恐怖」を忘れにくく、嫌なこと、怖かったことをしっかり記憶しているもの。トラウマや恐怖心が噛み癖を助長していることもあります。
■4. 飼い主を下に見ている
主従関係ができておらず、「犬が上、飼い主やその家族が下」となってしまっている場合も、噛み癖が強く出てしまいます。
犬は上下関係を大切にするので、自分より下だと認識しているのであれば、噛んでもいい対象になってしまっているかもしれません。犬との普段の関係や反応を観察してみてください。
子犬が本気噛みをする原因・理由
歯も生えそろわない子犬の場合、成犬とはちがう理由で本気噛みをすることがあります。その理由は主に3つあります。
まず1つめは、「歯の生え変わりで口がむずがゆい」から。生後3~8ヶ月のあいだに子犬の歯は乳歯から永久歯に生え変わります。歯茎がむずむずするため、子犬は“むずむず”をどうにかしようとして、目についたものをとりあえず口に入れようとするのです。そこに飼い主さんが手を差し伸べたとしたら、「渡りに船!」と噛みついてしまいます。
2つめは「力加減がわからない」から。飼い主と遊んでいるときに思わず噛みついてしまうことも多いです。生まれて1~3ヶ月頃は「社会化」の時期といわれており、親や兄弟とじゃれ合ったりケンカしたりして社会性を身につける時期です。しかしペットショップで購入した犬の場合、生後2ヶ月くらいで家族と離れているため、じゃれあいの中で力加減を学ぶ機会が少ないまま。「これ以上噛んではいけない」という境界線がわからずに飼い主さんを噛んでしまうことがあります。この場合は、親犬に代わって飼い主が社会性を教えてあげなければなりません。
そして3つめは「気を引きたい」から。もっとかまってほしい、いっしょに遊んでほしい……というときに噛むこと多いといわれています。甘えたがりな性格な子、さみしがりな子、飼い主とのコミュニケーションが大好きな子は特に注意してあげましょう。
犬の本気噛みの対処方法・しつけ方7個
ここでは犬の本気噛みへの対処方法と、噛みぐせを改善させるトレーニング方法を紹介します。どれもすぐにできることばかりなので、今すぐチェックしてみてください。
■1. ストレスの原因を排除する
散歩が少ない、もっと遊びたい、飼い主さんとスキンシップをとりたいという欲求が満たされていないと、犬は攻撃的になってしまいがち。
まずは犬とコミュニケーションをとることを考えてみましょう。1日15分でも全力で遊んであげる、運動不足を解消する、マッサージなどをしてスキンシップを多くするなど、すぐに始められる対策もあります。
■2. 主従関係をハッキリさせる
犬に命令するなんてできない、と思う飼い主は要注意。犬は人間からの指示を「楽しい!」と感じる生き物だといわれています。トレーニングやコマンドを繰り返し、飼い主さんが上だということをしっかり覚えさせることからスタートしてみては?
おやつを使って「マテ」や「フセ」をするだけでも効果大。コマンドをきちんとできたら褒める、ということを続ければ、犬はしっかり主従関係を学びます。
■3. 恐怖や不安をとりのぞく
犬が噛むときのパターンを分析してみましょう。たとえば犬のおなかを触っているときに噛みつく、ハウスに手を入れると噛まれる……など、どのようなときに犬が噛むのかをリサーチしていきましょう。
もしかしたら触られた部分に痛みがあるのかもしれませんし、昔の記憶がよみがえって怖いのかもしれません。自分のハウス(=領域内)に飼い主さんが侵入してくるのが嫌な場合もあります。
叩かれた記憶や経験がある犬は、反射的に噛みつくことがあります。時間はかかりますが、「この手はもう叩かない」ということを教えていってあげればいいのです。
いきなり顔まわりをさわるのではなく背中や胸、おなかをやさしくさわってあげましょう。さわられても噛まなかったら、大げさにほめてあげることも重要です。
たくさんほめてあげて「この手がたくさんほめてくれるんだ!」って思ってもらえると◎。いつもよりちょっと高い声で、たくさんほめてあげてくださいね。
■4. 要求噛みには反応しない
「もっとかまって!遊んで!」という要求で噛む場合は、飼い主が反応しないことが大事。もし「やめて!」などと声を出してしまうと、犬は「飼い主さんが反応してくれた!」と喜び、“次から要求するときは噛めばいい”と学習してしまうのです。
この負の連鎖を断ち切るために、まずは要求吠えや要求噛みには無反応をつらぬきましょう。最初は「少しかわいそうかな?」と思ってしまうこともありますが、そこは飼い主さんもガマンを。
■5. 興奮させすぎない工夫を
興奮からくる本気噛みは、家族が帰宅したときや、来客のチャイムがなったときなどに起こります。興奮状態に陥ってしまうとテンションが高くなりすぎてしまい、自分でも制御がきかない状態になってしまうのです。
たとえば遊びの最中に興奮してきたら、そこで遊びをいったんストップして、インターバルを置くだけでも変わってきます。家族が帰宅した際に噛んでしまうのなら、落ち着くまでハウスやケージに入れておき、落ち着いたころ出して遊んであげるのでもよいでしょう。
ポイントは、集中状態を途切れさせることです。意識をほかに向けるように誘導すれば、改善が見込めることでしょう。
■6. 社会性を教える
まだ幼いころから親犬や兄弟と離れて社会性が身についていない犬の場合は、飼い主が教えてあげる必要があります。遊びの延長でじゃれついて噛んでしまう場合は、噛まれたら痛い、ということを根気強く伝えていきましょう。
しかし、「痛い」「やめて!」など声に出すよりは、無言でその場を立ち去ったほうが効果的です。声を出すことで犬をさらに興奮状態にさせたり、遊びだと勘違いされたりする可能性があるため。噛まれたらそっと犬の前から離れて。
叱って直るものではなく、飼い主さん側も態度や行動で示していくようにしてください。そのうち「このくらい強く噛んだら遊びが中断されるんだ」と学び取ります。
犬にとって一番楽しい遊びがストップするのは苦痛なはず。その心理を使って、遊び方を教えてあげていきましょう。
■7. 犬がいやがることはしない
これは基本中の基本かもしれませんが、犬がいやがることをしないだけでも効果的。犬種によっての性格の違いも、個体によっての違いもあります。遺伝的に顔をさわられるのがいやな子もいるかもしれません。
犬がどんなときに噛みつくのか、どういう場合にいやがるのかを、常日頃から観察しておくといいでしょう。驚かせない、怖がらせない、追い詰めない、などを心がけてくださいね。
もし爪のお手入れやトリミングなどで、どうしてもいやがる部分を触る場合は、プロのトリマーさんや獣医さんに力を借りるのもおすすめです。
まとめ
「噛む」という行為は、犬にとって自衛本能のひとつです。しかし本能だからとはいえ、そのままにはしておけない問題でもあります。子犬のうちなら甘噛みが本気噛みにならないようにトレーニングを、成犬なら正しいしつけ方法で矯正していく必要があります。
まずは犬の様子を観察し、どういうときに噛むのかをチェック。そしていちばん大事なのは噛まれたときの飼い主さんの反応と行動です。大きい声で叱りつけたり叩いたりするのは絶対やめてください。さらに攻撃性を高めることになりかねません。「犬は悪くない、人が悪い」というトレーナーさんや獣医さんもいるほどです。
正しい対処法でトレーニングをしていきましょう。愛犬とのおだやかで楽しい生活のために、飼い主さんがまずは理解を深め、犬に教えていってあげてくださいね。