※この記事は、臨床心理士資格を持つライターが書いています。
嫌なことがあると、その後しばらくはイライラしてしまいますよね。それは仕方のないことです。でも、社会人になるとそれを顔に出してしまうのはNGです。その場その場に応じた感情であるよう、感情をコントロールしていかなければなりません。
この記事では感情とは何かをまず学び、感情をコントロールすることがいかに私たちにとって有益かを知り、感情をコントロールできるようになる訓練方法をお伝えします。
感情の正体
私たちは自分の感情を理解できていると思っていますよね。でも実際は、私たちが思っているほどは、私たちは自分の感情を理解できていません。
感情とは我々が周囲の環境をどのように見ているかの評価と言えます。有名なところでは吊り橋効果がその良い例です。吊り橋を渡ったことによる生理的なドキドキ感を、異性に魅力を感じてのドキドキ感と勘違いして恋愛感情が生じます。仮に同じ状況であったとしても、その状況の評価が異なれば、感情は変わってきます。
つまり、感情は私たちの脳の情報処理がもたらした産物であると言えるのです。
感情のスイッチが入る仕組み
■感情とは状況の判断・状況への反応の結果
感情の正体で見てきたように、実は私たちの感情というのはその状況をどのように評価するかによって色々なスイッチが切り替わっていきます。同じ状況であっても怒る人もいれば笑う人もいたり、平静でいられる人もいますよね。
違う反応が出てくるのは、その状況をどう判断し、どう反応すればいいのかを脳が瞬時に判断しているからです。
■感情知能とは
では、脳すなわち性格が感情のスイッチの入れ方を決めるのかというと、そうではありません。頭がいい人はIQ(知能指数)が高いと言いますよね。それと同じように、EQ(感情知能)が感情のコントロールにかかわってきます。
感情知能が高いほど、嫌な感情を感じていても自分を持ち直すことができます。感情知能はある程度は訓練を積むことで高くすることもできます。
そのため、感情のコントロールが元々上手な人もいれば、訓練を積んで感情のコントロールが上手くなった人もいるのです。この感情のコントロールの訓練方法は、記事の終わりのほうで見ていきます。
感情のコントロールができる人の特徴20個
感情知能が高い人は上手に感情のコントロールができます。
感情知能は大きくは
(1)自分の感情を上手にコントロールできる対自己領域、と
(2)他者の感情を適切に理解することのできる対他者領域、
の2つに分かれます。
対自己領域には以下の10個の特徴があります。
■1. 自分の感情がきちんと分かる
感情のコントロール力が高い人は、自分が今どんな気持ちでいるかを正確に把握できます。当たり前のことと思うかもしれませんが、このことはスタート地点として重要です。自分がどんな感情を感じているかをまず理解しているからこそ、その感情を人前に出してもいいのか、それとも感情を一時的に抑えたほうがいいかなどの次の行動が取れます。
■2. 嫌なことがあっても表情に出さず、平静を保てる
自分が今、嫌な感情を感じているなということを理解できると、感情のコントロールが上手にできる人は、次はその感情を人前では出してはいけないという行動につなげられます。その場の雰囲気に応じた感情を表現することができます。
また話し合いで自分の意見を否定されるという一時的な嫌な出来事の場合は、その場だけのものと割り切れます。あくまでも相手は自分の意見を否定したのであって、自分の存在そのものを否定したわけではないというふうに、客観的に物事を把握できるのです。
■3. ネガティブな言葉をあまり口にしない
これはネガティブな感情を抑え込むということや、愚痴を言わないということとは少し異なります。誰だってつらい時には弱音を吐くことだってあります。でもどんな言葉であれ、
繰り返して言うことで、催眠術のように自己暗示にかかってしまいます。まさかと思うかもしれません。でも極端な例かもしれませんが、「お前は馬鹿だ」と言われ続けると、自信がなくなってしまいますよね。それと同じです。
ネガティブな言葉も少しならいいのですが、あまり多く言いすぎると、かえって自己の委縮につながります。感情のコントロールが上手な人はネガティブな言葉をあまり口にしません。
■4. 恨みを持ち続けない
自分だけではなく、人に対してもネガティブな感情をずっと持ち続けることはありません。
■5. 失敗も人生の糧として受け入れられ、くよくよと引きずらない
感情のコントロールができる人だって、失敗したら落ち込みます。でも、その後その失敗から何が学べるか、失敗を繰り返さないためには何をすればいいかを考えることができます。いつまでも失敗によるネガティブ感情を引きずらず、少し落ち込んだらまた前を向いて歩けるのです。
■6. 完璧を目指さない
なぜ失敗も人生の糧として受け入れられるかというと、感情のコントロールができる人は完璧を目指しているのではないからです。上手に生きることと、完璧を目指して生きることは異なります。
完璧を目指して生きることは、ささいな失敗すら受け入れることができず、自分を責め続けることにつながるため、かえって自分の首を絞めてしまいます。100点満点の完璧を目指すよりも60点ぐらいを目指す方が、トータルで見ると幸せにつながるのです。
■7. 自分の長所や短所を把握している
人間誰だってできるなら完璧でありたいと思います。でも、完璧であることは難しいため、ほどほどに頑張って生きていくしかありません。これは案外難しいことです。なぜならば、頑張ることは基本的に苦しいことだからです。
しかし、感情のコントロールが上手にできる人は自分の長所と短所をきちんと把握しています。そのため、頑張るところは頑張る一方で、自力では上手くできないところは頑張りすぎないことができます。
また、自分にできることとできないことを分けて考えることができるため、何か頼まれたときに上手にイエスとノーの返事が返せます。必要以上に自分を追い込んでまで物事に取り組むということはありません。
■8. 自分の幸せを自分で決めることができる
周りに流されず、自分は何を今求めているのかを知っています。人間は流行に流されてつい衝動買いしてしまうこともあります。しかし感情のコントロールができる人は目先のことにとらわれず、どうすれば自分が幸せになれるのかを考えることができます。
■9. 変化することを恐れない
周りに流されないとはいえ、必要であれば変化することを恐れません。時には自分の意見が間違っていて、他の人の意見の方が正しいこともあります。また、今までのやり方を捨てて、新しいやり方を取り入れなければならない時もあります。考え方ややり方を変えることには大なり小なり労力を伴うので、ついこだわって変えられない人もいます。
しかし、感情を上手にコントロールできる人は自分の考えややり方を柔軟に変えることができます。
■10. 一度始めたことは最後までやり遂げようとする
一度取り組んだ課題や仕事を最後までやり遂げる熱意を持っています。
対他者領域には以下の10個の特徴があります。
■11. 他人が今どんな感情を感じているかを理解できる
感情のコントロールができる人は、自分の感情だけではなく、他人がどういう感情を感じているかも適切に理解できます。
■12. 映画やドラマを見て、登場人物の気持ちがよく分かる
他人がどんな感情を感じているかを理解できるため、映画やドラマを見ても、その俳優の言動からどういう感情が表現されているかをよく理解できます。そのぐらい誰でもできることだと思う人もいるかもしれません。
でも、映画やドラマを見て楽しめるのは、一定の年齢層以上ですよね。子ども向けの映画はたいてい表情が分かりやすいアニメやコメディが多いですよね。
他者の感情の機微に鈍感な人や子どもには、実は映画やドラマで表現される感情というのは分かりにくいものなのです。
■13. 人の話を聞いて、喜びや悲しみを共有できる
他者がどういう感情を感じているか敏感に感じ取れるだけではなく、一緒に喜んだり、悲しんだりすることができます。実はこれは、「相手がどんな感情を感じているか適切に理解できている」、「自分が現在どんな感情を感じでいるかを理解できている」、「自分の感情を相手に合わせて変えることができる」という3つの要素が入った非常に複雑な行動なのです。
■14. 困っている人を見ると放ってはおけない
他者の感情に敏感なので、困っている人を見ると普通の人が感じる以上に「困っているな…」というのが伝わってきます。そのため、感情のコントロールができる人は困っている人を見ると、つい手助けしたくなります。ボランティア活動に積極的に参加することも多いです。
■15. 相手の気分を害するような発言をしたくない
感情を上手にコントロールできる人は相手の気持ちに共感することができます。そのため、相手が傷つくと、そのことをすぐに察してしまい、自分が相手を傷つけたことで胸を傷めてしまいます。だから、相手の気分を害するような発言は、自分のためにもあまりしたくありません。
■16. 誰とでもすぐに仲良くなりやすい
初対面の人と会うことは誰だって緊張することです。でも感情のコントロールができる人は、緊張しているということを表面に出さないようにすることができます。このことは対面している相手にとってすごく心強いことです。
心理学には返報性の原理という法則があります。これは、好意を受けると相手に好意を抱く、自分を嫌う相手は嫌いになってしまうというお返しの法則です。
自分と初対面の相手がリラックスした態度で接してくれる状況を想像してみてください。自分もリラックスしやすいですよね。そのため、感情をコントロールできる人は誰とでも比較的早く打ち解けることができます。
もちろん感情を上手にコントロールできる人にだって、苦手のタイプもいるでしょうが、そういった人ともそれなりに上手くやっていくことができます。
■17. つながりを断つことができる
ただし、感情のコントロールが上手な人にだって嫌いな人もいます。また、ヤクザや不良などあまり付き合いを持たない方がいい人も世の中にはいます。そういう人とは上手に距離を置き、つながりを持たないようにすることができます。そのため、対人トラブルを避けることができます。
■18. 相手に不快な思いをさせず、上手に断れる
自分の力量が分かっているため、自分にできることとできないことを把握できています。そのため、「これは自分にはできるけど、あれは自分にはできない」と上手に判断できます。できないことはできないので、無理なことを頼まれたときに断るのは当然です。しかし、感情を上手にコントロールできる人は、上手に断ることができます。その結果、相手に不快な思いをさせずに済みます。
■19. 仕事やクラスのまとめ役に向いている
周囲の他者の感情を正確に把握できるため、感情のコントロールができる人はまとめ役に最適です。疲れていたり体調が悪くて良い状態ではない人にはほどほどの仕事を、元気いっぱいの人にはその分少しだけ頑張ってもらうなど、仕事を上手に分配します。また、相手の感情を理解して、その人にどういえば気持ちよく仕事をしてもらえるかの配慮もできます。
■20. 他人の能力を引き出すことができる
感情のコントロールが上手な人がまとめ役をすると、周りの人は気持ちよく働くことができます。誰だって嫌々働くよりは気持ちよく働く方が高い成果を上げることができますよね。このことより、感情のコントロールが上手な人は、他の人が持っている力を上手に引き出すことができると言えます。
感情のコントロールができることのメリット3つ
感情をコントロールできることには、大きくは以下の3つのメリットがあります。
■1. 仕事で高い成果を上げることができる
対自己領域での感情のコントロールができる人の特徴で見てきたように、感情のコントロールができる人は完璧な結果を目指しません。60点ぐらいのほどほどの成果を目指します。
100点ではなく60点を目指すというのは、仕事の成果を長い目で見た時に必要なことです。完璧な結果は確かに望ましいものです。しかし、常に完璧な結果を挙げるとなると、絶えずプレッシャーがかかってきます。完璧でなければなければならないというプレッシャーがかかるため、ささいなケアレスミスでも許せなくなります。そのため常に大きなストレスがかかった状態となります。
しかし、60点のほどほど主義であるのならば、少しの失敗ではめげたりしません。むしろ、その失敗を次の成長のための糧として取り入れることもできます。また、仕事での成功に喜びを感じることができるため、働くことへのモチベーションを高く維持できます。
このようにして、感情のコントロールができる人は長い目で見た時に仕事で高い成果を上げることができるのです。
■2. 良い対人関係を築くことができる
感情のコントロールができる人の対他者領域での特徴で見てきたように、感情のコントロールができる人は相手の気持ちを上手に察します。また、誰とでもすぐに仲良くなることができ、基本的に困っている人には手を差し伸べられるため、良い対人関係を築くことができます。
また、感情のコントロールができる人は人に頼みごとを上手に言えるため、リーダーにも向いています。そのため、プライベートの対人関係だけではなく、職場でも良好な対人関係を築くことができます。
■3. 健康で幸せな生活を送ることができる
上記2つで見てきたように、感情のコントロールができる人は公私にわたって充実した生活を送ることができます。
また心理学の研究によると、感情のコントロールができるほど、不安や不眠に陥りにくく、活動的な生活を送ることができることが島井ら(2002)によって報告されています。感情のコントロールができることは、単に感情に影響を及ぼすだけではなく、私たちの日常生活の質を向上させ、より良く生きることにつながっているのです。
感情のコントロールができない人の訓練方法7個
このように、感情をコントロールできるようになれば健康で幸せな生活を送ることができるだけではなく、仕事や対人関係においても上手くやっていくことができます。この感情のコントロール能力は生まれつきのものではなく、訓練すれば高くすることもできます。
感情のコントロールを習得するための方法には、以下の7個があります。
■1. 何かあったら、まず深呼吸をする癖をつける
怒りや悲しみなどのネガティブな感情を感じた時は、まずは深呼吸をしましょう。深呼吸することには2つのメリットがあります。1つは当たり前ですが、身体的に落ち着くことができることです。もう1つは、間を取ることができることです。深呼吸することで取れる間はほんの数秒かもしれません。それでも感情的になって発言して、取り返しのつかないことになるよりは大分ましです。
何かあったら深呼吸をする、そのことを頭の片隅に普段からおくようにすれば、いざネガティブな感情を感じた時にも深呼吸をしやすくなります。
■2. 普段から肩の力を抜くようにする
深呼吸したら肩から力を抜き、リラックスした姿勢を取りましょう。仏教には心身一如という言葉があります。これは体と心の関係は、コインの表と裏のように一つのものの両面であるという意味です。そのため、体がリラックスすることは、心のリラックスにつながります。感情が動揺した時には体がこわばっていると思います。そのため、できるだけ肩や体から力を抜くようにしましょう。普段からこのことを心掛けていると、いざ動揺した時にも実践しやすくなります。
■3. セロトニンを分泌するような生活習慣に改善する
セロトニンとは脳の神経伝達物質の1つです。うつ病の人はセロトニンが不足しがちになるというように、セロトニンは気分を安定させる働きがあります。
セロトニンの分泌を促進させる簡単な方法の1つに、太陽の光を浴びることが挙げられます。日焼けするのが嫌だからといって、日光を浴びないようにしていませんか?うつ病の治療方法の一つとして、日光にあたることが推奨されているぐらい、日の光を浴びるのは実は大切なことだったのです。
■4. 焦点の当て方を変える訓練を行う
焦点の当て方を変えたり、物事の考え方をポジティブな方向に変える訓練を行いましょう。マイナスな考え方自体が悪いということではありません。心配することには先のことに用心し、準備できるというメリットもあります。大事なのは、事実と感情を分けて考えるようにすることです。
例えば、「会議や話し合いで自分の意見を否定された」とします。事実と感情をごちゃごちゃにしてしまうと、「会議や話し合いで自分の発言を否定されて恥ずかしかった」となってしまいます。実際の事実は「自分の発言は否定された」のであり、その結果として感情は「皆の前で自分の意見が否定されて恥ずかしかった」でしょう。
事実の焦点を別の視点から当てると、「自分の考えよりも、もっと良い案があったから、その案が採用されただけだ」となるかもしれません。同じ状況であっても、異なる考え方はできます。一日にあったことを振り返り、他の人の立場から色々考えてみることで焦点の当て方を変えることができてきます。
■5. 日々のちょっとしたことで自分をほめる
高い目標に向かって全力で取り組むことは、頑張り屋で素敵なことです。でも、それで自分を追い込むのはもう止めませんか?高い目標を目指すあまり、小さな成果をないがしろにして、失敗だけに目を向けるのは止めませんか?自分を苦しめるだけの完全主義は捨ててしまいましょう。
夜ベッドに入ったら、一日のうちでちょっとでも上手くいったことを思い出してみましょう。あるいは、楽しく取り組めたことでもいいです。眠い時は意識が揺らいでいるため、暗示がかかりやすい状態と言えます。その状態の時にちょっとした成功で自分をほめていきましょう。毎日繰り返し行っているうちに、ちょっとした成功で喜べる自分になれるでしょう。
■6. 普段からの言葉遣いを変えてみる
感情のコントロールができる人に形からなってみるのも、一つの手です。その方法の一つが、普段からの言葉遣いを変えてみることです。人から何か言われるたびに、「でも…」、「いえ…」のような答え方をついしてしまうことはありませんか?
ネガティブな言葉を返されると、実際の内容とは関係なく、言われた相手は「自分は少し嫌われているのかな」とつい思ってしまいます。まずは、相手から何か言われたときには「はい」で返すようにしましょう。
その後相手の意見を否定したいときには、「はい。でもその意見は違うと思います。」のように、何を否定したいのかを明確にしましょう。
■7. 自分の嫌な感情を他人のせいにしていないか振り返ってみる
イライラしたり、落ち込んだりするのを他の人の言動のせいにしていませんか?もしイライラしているのはあの人が嫌な奴だからと思っていたとしましょう。先に返報性の原理を紹介しましたよね。
この原理をあてはめると、相手もあなたのことを嫌な奴だと思ってしまいます。難しいことかもしれませんが、嫌なことがあってもそのことで誰かを責めることはしないようにしましょう。
まとめ
感情のコントロールには感情知能というものがかかわっています。この感情知能は日常生活を円滑に過ごすことに関連しています。
感情知能は訓練することで高くすることができます。1つでもいいのでここで紹介した感情のコントロールを身に着けるための訓練を行ってみてください。きっと、今以上に素晴らしい日々を送ることができると思います。
<引用文献>
島井哲志・大竹恵子・宇津木 成介・内山 喜久雄 (2002). 情動知能尺度(EQS)の構成概念妥当性と再テスト信頼性の検討 行動医学研究, 8, 38-44.