日本の女性は、着物がとてもよく似合うと言われています。和柄の持つ繊細さと優美さが、日本女性の良さを引き立たせるからでしょう。
最近は、洋服の文様にも和柄が取り入れられています。和柄文様の中でも、もっとも親しみがわくのは花や植物の模様です。着物や浴衣を彩る和柄には、日本の優しさや艶やかさが表されていて、着ている人の人柄を感じさせるものです。
古くから伝わる和柄文様は、ひとつひとつに由来や意味があります。本記事では、代表的な和柄の種類と意味をご紹介致します。
1. 朝顔文(あさがおもん)
朝顔文は、夏の着物、特に浴衣の文様として使われています。朝顔は平安時代に薬用として中国から伝わりました。朝顔は朝に咲いて昼にはしぼんでしまうので、花言葉は「はかない恋」という意味があります。
しかし、朝顔のつるは、固い絆も意味し、愛の強さを表しています。結婚を決めたカップルが、夕涼みにお揃いの朝顔文の浴衣を着て出かけるのに最適な柄となります。
2. 麻の葉(あさのは)
麻の葉の文様は、幾何学的な六角形の文様です。平安時代から、仏像の衣装などに麻の葉文様が使われました。麻の葉は成長が速いことから、子どもの成長を願う親御さんの思いを込めて、麻の葉を着物の柄として使うようになりました。
女性の着物の柄としても、六角形のデザインは古さを感じさせません。麻の葉柄の着物は、女性の可憐な女心を表すものとして愛されています。
多くの種類があり、「麻の葉つなぎ」や「麻の葉崩し」、「麻の葉破れ」、「麻の葉鹿の子文」などがあります。
3. 銀杏文様(いちょうもんよう)
銀杏文様は、銀杏の葉の形の面白さから、さまざまに文様化されています。着物の柄としては、無地に見えるくらい小さな銀杏の葉を一面に散らした小紋などの文様に使われています。
葉の形が扇に似ているので、末広がりを意味し縁起の良い柄として着物の文様などに用いられています。他の文様と合わせて使うこともあり、賑やかな感じの模様となります。
銀杏の木は丈夫で生命力があり、銀杏(ぎんなん)の実は精力剤にもなります。葉を煎じると薬にもなり、昔から縁起の良い木と言われています。銀杏は家紋としても、公家や武家の家紋として使われ、格調の高い文様です。
4. 梅文様(うめもんよう)
梅は奈良時代に中国から伝えられたものです。万葉集でも多くの歌人によって、歌われました。梅の文様も種類が多く、その中でも際立って美しいものとして、「氷梅(こおりうめ)の文様」があります。
氷の割れ目を直線で表し、そのなかに梅の花が描かれた文様です。「梅花氷裂(ばいかひょうれつ)」とも言います。
氷と梅で早春の季節を表しています。また、「槍梅(やりうめ)」という文様は、梅の木が垂直に伸び、小枝に梅の花が咲いている構図です。
5. 遠州椿文様(えんしゅうつばきもんよう)
遠州椿文様は、椿文様の一種です。遠州(えんしゅう)は、現在の静岡県西部です。遠江国(とうとうみの国)と言います。
椿は日本原産の木です。椿の花の文様は不老長寿を表すものとして愛用されました。また椿文様は厄除けとしても効果があると信じられています。
室町時代に発達した茶道の普及とともに、お茶室に飾るお花として椿が用いられました。茶道の中の遠州流の開祖が、好んだと言われる椿文様が、遠州椿と呼ばれるようになり、現在でも着物や帯の柄として用いられています。
6. 紅葉文様(もみじもんよう)
平安時代から秋の紅葉狩りとして、紅葉は親しまれてきました。紅葉の葉が秋になり、葉の色が赤く燃えるような輝きを持つようになると、辺り一面、錦絵の世界に包まれます。
奈良の紅葉の名所として知られる奈良斑鳩(いかるが)の竜田川の情景を描いた「竜田川文様(たつたがわもんよう)は、色づいた紅葉が川に流れていく様子を描いた文様です。伝統的な流水に紅葉の組み合わせた文様で、平安時代の風雅を伝える柄でもあります。
歌人の在原業平(ありわらのなりひら)の和歌に、「ちはやぶる、神代もきかず、竜田川、からくれないに水くくるとは」があります。意味は、「昔の神代の時代にも聞いたことがない。竜田川が、絞り染めのように、水が真っ赤に染められているとは」という意味です。
7. 唐草文様(からくさもんよう)
唐草文様は、つる草が絡み合っているような文様です。唐草という植物はありませんが、中国から伝わった模様という意味で、唐草模様の名前が使われたものと言われています。
この文様の起源は古代エジプトやメソポタミアにあります。シルクロードを経て中国に伝わり、日本には奈良時代に伝わったとされています。
唐草文様は幅広く使用され、染物や織物、蒔絵の装飾にも使われています。江戸時代には、庶民の柄となり、風呂敷や獅子舞の被り物の柄に使われるようになりました。
8. 菊文様(きくもんよう)
菊文様は、秋の季節を表すものとして用いられています。菊の柄は長寿を象徴する花として縁起の良い文様です。格調の高い文様なので、秋だけでなく季節を問わず着ることができます。
菊は中国から薬草として伝来しました。菊文様は平安時代から用いられ、公家の着物や家具や調度品などの文様として愛用されました。室町時代からは、武家の甲冑や武具に菊の文様を使うようになりました。
天皇家の文様として用いられるようになったのは、鎌倉時代の後鳥羽院(ごとばいん)が使用するようになってからです。近世になり、大正15年に法令によって、「十六弁八重表菊紋(じゅうろくべんやえおもてきくもん)」が正式に御紋章となりました。
9. 桐文様(きりもんよう)
桐文様の中でも、伝統的な文様は、「桐竹鳳凰文(きりたけほうおうもん)」です。おめでたい柄として、通年着ることができます。
中国の伝説では鳳凰(ほうおう)という孔雀に似た霊鳥が、桐の木に住むと言われています。日本でも菊と同様、皇室の紋とされてきました。桐の文様は三枚の葉に三つの花の房をつけています。
中の房に七つの花、左右に五つの花をつけたものを「五七の桐」と言います。他に「五三の桐」もあります。格式の高い文様なので、礼装用の着物や袋帯などの柄として用いられています。
10. 栗文様(くりもんよう)
栗文様は、毬栗(いがぐり)の中に栗が入った様子を文様にしています。針のボールのような円形の文様を一面に散らした文様です。「搗栗(かちぐり)の読み方が「勝ち」につながることから、勝負ごとに縁起が良いとされています。
お正月のお節料理にも金運や勝負運を強める縁起物として必ず「栗きんとん」が選ばれています。甘くて美味しい「栗きんとん」はお子様の大好物です。
11. 桜文様(さくらもんよう)
※小桜文様
桜は平安時代から、着物などの文様として使われています。桜を使った文様は種類も多く、代表的なものとしては、小桜(こざくら)文様があります。5枚の花弁を持つ小さな桜の花が一面に散らばっている文様です。桜の花は、一律に小さく、小紋の柄になります。
また、「桜散らし(さくらちらし)」は、大小さまざまな桜の花を一面に散らした文様です。また、桜と楓(かえで)をいっしょにした文様に、「桜楓文様(おうふうもんよう)」があります。桜の花と楓(かえで)の葉を混ぜて一面に散らしてある文様です。
桜は春を表し、楓は秋を表しています。そのため、季節を問わず使える着物の柄として使える文様です。
12. 菖蒲文様(しょうぶもんよう)
菖蒲は古くから解毒作用がある薬草として大切に扱われました。そのため、菖蒲の葉は、魔除けのお守りでもありました。縁起の良い植物として、厄除けや長寿を願うものとして愛されました。
5月5日の端午の節句に菖蒲を飾ったり、湯船に菖蒲の葉を入れて菖蒲湯にしたり、菖蒲酒を飲んだりするのも魔除けの意味があります。
「勝負」や「尚武」と同音のため、武家の文様として好まれました。そのため甲冑や武具、馬具などの文様として使用されています。着物の柄としては、風景の一部として流水とともに描かれることが多い文様です。
13. 竹文様(たけもんよう)
竹文様は、地下では地下茎を張り巡らし、土をつかんで離さないという強さを表しています。また地上では、竹がまっすぐに勢いよく伸びることから、威勢の良さを表しています。
中国の伝説では、鳳凰(ほうおう)という鳥が、竹の実を食べることから、長寿や永遠を表す縁起の良い物の象徴とされました。
竹の清涼な爽やかさ、節制を意味する節の生真面目さが表される竹の文様は、着物や浴衣の柄として、夏に使用されますが、小紋などの柄であれば通年着られる文様です。
「松」や「梅」とともに縁起物として着物の文様として使用されることもあります。竹文様は格調が高く、能装束の文様や工芸品などの文様、蒔絵や陶器などに用いられます。
14. 橘文様(たちばなもんよう)
橘文様は、橘の実と葉を合わせて左右対称に描いた文様です。中央が果実で、後ろの3枚と下の2枚が葉になります。
橘は日本原産のみかんの一種です。常緑樹で長寿を意味し縁起の良い文様とされています。昔から、家紋としても使用されています。
また、橘は京都御所の右近の橘と言われるように格式の高いものとされ、着物の柄としても、留袖や振袖などに使用されています。
15. 丁子(ちょうじ)
丁子は、中国から伝わったものです。宝物として扱われ、奈良時代の正倉院の宝物の中にもあります。丁子は、花のつぼみを乾燥させたものです。
釘のような形をしているので、中国では、釘を意味する「丁子」の字を当てました。丁子の柄は、花のつぼみと3つの葉が合わされています。
着物の柄としては、細かい丁子文様を一面に散らして、小紋に使います。武家の家紋としても使われ、「丸に並び丁子」、「丸に違い丁子」、「丸に三つ丁子」、「丸に右一つ丁子巴」などがあります。
16. 露芝(つゆしば)
三日月形の円弧を芝の葉に見立てて、葉の上に露の水滴を置いた文様です。夏の朝の風景を表しています。涼し気な柄ですので、夏の時期から残暑の時期に着る着物の柄として最適です。
また芸術的には、露のはかなさを表し、桃山時代から江戸時代の能装束にも用いられました。華やかさよりも落ち着いた柄ですので、趣味の会とか一人でのお出かけ用の着物に向いています。
17. 唐辛子(とうがらし)
唐辛子の文様を着物の柄にする時は、細かい唐辛子の実を一面に散らしたような柄にします。唐辛子は、ナス科トウガラシ属の果実です。香辛料として桃山時代に朝鮮から伝わりました。
唐辛子の文様には、「唐辛子巴」、「三つ唐辛子巴」、「丸に違い鷹の爪唐辛子」、「五つ唐辛子車」などの種類があります。着物の柄としては、小紋に用いられています。
18. 茄子文様(なすもんよう)
茄子は、インド原産の植物で、中国を経由して7世紀から8世紀頃に日本に伝来しました。紫色の茄子が一般的ですが、白や青の茄子もあります。茄子の文様は縁起の良いものとされています。格調の高い文様として、江戸小紋の柄として使われることもあります。
茄子を使った家紋としても「五つ茄子」、「丸に葉付き茄子」、「三つ追い茄子」、「茄子枝丸」、「三つ葉茄子」、「三つ割茄子」、「茄子桐」などの種類があります。
19. 花勝見(はなかつみ)
花勝見は、水辺の草の名前と言われています。ただし、具体的に何の植物を言ったものなのかは不明です。
波のようにうねった藻(も)が縦横に走り、曲線の格子柄(こうしがら)になっています。その中に花を菱形にした花菱(はなびし)を置いた文様です。
江戸時代に、舞の上手な歌舞伎の役者さんが、この文様の着物を着て踊ったことから人気が出たと言われています。
20. 一つ茶の実(ひとつちゃのみ)
一つ茶の実の文様は、茶の実と葉を左右対称に描いた文様です。上の3つに別れた丸みのある部分が実を表しています。下に2枚の葉が勢いよく入っています。
茶はツバキ科の常緑樹で長寿を表す縁起の良いものとされています。家紋としては歴史が古く、源氏や平氏の流れをくむ武家の家紋として使われました。
21. 瓢箪(ひょうたん)
瓢箪は、種子が多いことから、子孫繁栄の意味があります。また瓢箪の蔓(つる)が物にからみつくことから、商売繁盛の意味もあります。
豊臣秀吉が、千成瓢箪(せんなりひょうたん)を馬印にしたことは有名です。着物の文様としては、男性の羽織や、帯に使用されています。
22. 藤文様(ふじもんよう)
藤文様は、花の美しさや優美さから、平安時代から藤原氏の家紋として使われています。
文様としても種類が多く、代表的なものは、「藤立涌(ふじたてわき)」、「藤の丸」、「巴藤」など50種類以上あります。
23. 葡萄文様(ぶどうもんよう)
葡萄文様は、ペルシャやローマなどで用いられた文様です。シルクロードを経て中国に伝わり、日本には奈良時代に伝わり、正倉院の宝物にも葡萄の文様が見られます。
また、葡萄文様は、栗鼠(りす)といっしょに描かれています。栗鼠は多産系で、子孫繁栄を意味する縁起の良い動物です。
室町時代以降では、葡萄を「武道(ぶどう)」、栗鼠を「律す(りっす)」と読み替えて、武家の文様として愛好されました。
24. 牡丹文様(ぼたんもんよう)
女性の華やかさを表す代表的な花として牡丹は有名です。「立てばしゃくやく座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と昔から言われるくらい牡丹は、女性の代名詞となっています。牡丹は百花の王と言われ、平安時代には衣装の文様として多く用いられました。
牡丹は春から初夏にかけて咲く花ですが、季節を問わず縁起の良い柄として、訪問着や振袖などに用いられています。
25. 松文様(まつもんよう)
松の緑色は、常緑であることから、常盤色(ときわいろ)と呼ばれました。長寿を表すことから、目出度い文様として用いられました。松文様の種類としては、「若松」、「老松」、「松葉散らし」など、その他にもたくさんあります。
「松葉散らし」は現代でも人気のある文様です。松葉を一面に散らしたような繊細で優美な文様です。「こぼれ松葉」とも言います。
26. 柳文様(やなぎもんよう)
柳は日本の各地に見られる樹木です。非常に柔らかい感じがしますが、折れにくい強い木です。文様化されているのは、一般的に「枝垂柳(しだれやなぎ)」です。柳を植えると地盤が強くなることから、川沿いに植えられます。
着物の柄としては、柳とそのたの動植物と合わせて文様とされることもあります。柳と燕(つばめ)は、初夏に着る着物や帯に見られます。
まとめ
和柄の花・植物の模様の種類と意味一覧はいかがでしたでか。ここでご紹介した和柄の他にもたくさんの種類があります。
和柄の名前が古いので馴染めない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、和柄をご覧頂ければ、すぐに良さがお分かりになります。古典的な柄が、現代ではとても新鮮に感じます。