※ブリーダーなどペット業界経験豊富なライターが書いています。
高齢犬の飼い主さんにとって、「老衰」という言葉にはドキリとさせられる響きがありますよね。元気で長生きして、最期の時は穏やかに逝ってくれたら…、と頭ではわかっていても、気持ちのうえではなかなか現実のものとして受け入れ難いのが愛犬の死です。
しかし、今はどんなに元気いっぱいに見える愛犬も、いつかは必ず旅立つ日がやってきます。だからこそ、年老いた愛犬が息を引き取るその瞬間まで幸せに過ごせるよう、飼い主として犬の老衰や最期ときちんと向き合うべきではないでしょうか。
犬の老衰はどうしても避けられないことですが、飼い主としてできることはきっとあるはずです。
犬の老衰とは?
被毛の中に白い毛の割合が多くなってくると、「うちの子も年をとったなぁ」と感じることがありますよね。こういった見た目の変化は「老化現象」の一つ。しかし、まだまだ元気いっぱいの愛犬を見ていると、なかなか「老衰」とまでの実感はわかないものです。
ところが、いつの間にか散歩の時に歩くスピードが遅くなり、ボール遊びやオモチャに熱中しなくなっていることに気がつくと、飼い主さんは愛犬の老いを強く意識し始めるのではないでしょうか。
そして今まで経験したことのなかった体の不調――瞳が白く濁る、耳が遠くなり始める、胃腸の調子が崩れやすくなる、皮膚や口内に炎症が起きるといった状況に直面すると、さすがに愛犬の老衰を実感せずにはいられなくなるでしょう。
このように、犬の老衰はある日突然起こるものではありません。いつの間にか愛犬の体に忍び寄ってきた老化現象が、いつしか老衰へとつながっていくのです。
犬が老衰する平均年齢
ペット保険大手アニコムの調査によると、犬の平均寿命は14歳。一般的に、犬は大型になればなるほど寿命が短くなる傾向にあり、犬種によっても寿命に違いがあることが知られています。
犬の平均寿命はそれらすべてを総合したうえで算出しているため、小型犬の平均寿命は13~15歳、中型犬は11~14歳、大型犬は9~12歳ぐらいが妥当なラインではないでしょうか。
しかし、これらの年齢はあくまでも寿命。犬の老衰が始まる年齢は、それよりも前ということになります。一般的な平均寿命にあてはめて考えてみると、小型犬は13歳前後、中型犬は11歳前後、大型犬は9歳前後に老衰が始まると考えられます。
もちろん、加齢のスピードは犬によって個体差が大きいため、必ずしもこの数値にあてはまるとは限りません。しかし、少なくとも愛犬がシニア期に突入したら、遠からず老衰の兆候が表れることを飼い主さんは意識しておく必要があります。
犬が老衰する原因
人間や犬を含め、生き物の体を作る細胞には遺伝情報が記録された染色体が存在しています。染色体の末端にはテロメアと呼ばれる染色体の保護を担うループ状の構造があり、細胞分裂を重ねるたびに短くなっていくことが研究によって判明しています。
そして細胞分裂を重ねた結果、いよいよループが形成できなくなると、これ以上分裂しても正確にDNAを複製できないと細胞が判断して分裂をやめてしまうのだとか。
このように、古くなった細胞が新たな細胞に入れ替わっていく力が衰えてしまうからこそ、体は次第に老化していくことになるのです。
そして犬はテロメアが短くなるスピードが人間の約10倍。だからこそ、あっという間に飼い主である人間を追い越して、年老いていってしまうんですね。
シニア期に突入した頃から、犬の体内では新たな細胞を作り出す力が衰えはじめます。そのせいで、炎症などが起きても健全な細胞に生まれ変わらせることが難しくなっていくことに。その結果、臓器や血管、関節など体のいろいろな部分で機能が衰えていく――これが老化です。
そして老化がどんどん加速していくとやがては老衰と呼ばれる状態になり、最期の時が近づくのでしょう。
愛犬が突然、食事を食べない・水飲まない…
高齢になった愛犬の体が日々年老いていくのを止めることはできません。普通に歩くのもおぼつかなくなり、食もどんどん細くなる一方。一日の大半を寝て過ごし、起きているときも昔のように反応してはくれなくなるものです。
それでも、自力で食べたり飲んだりできるうちは、なんとなくまだ大丈夫な気がするものですよね。
しかし、いよいよ老衰が進んでくると、ある日突然食べ物を食べようとしなくなり、水すら自発的には飲んでくれなくなることがあります。
高齢だから仕方がない、いつかはこういう日が来る――と覚悟はしていても、いざその姿を目の当たりにすると、平気でいられる飼い主さんはまずいません。
しかし、それは飼い主として当然のことです。なぜなら、これまでずっと元気いっぱいの愛犬と過ごしてきた日々が幸せだったからこそ、愛犬の命の火が消えかかっているときに、冷静でいられるはずがないからです。
犬の老衰時の症状
老衰の仕方には犬個々によって違いがあります。もしも以下のような状態が見られたら、老衰初期の兆候かもしれません。
・一日のあいだで寝ている時間がかなり長くなった
・以前ほどオモチャや遊びに反応しなくなった
・散歩のとき、歩くスピードがかなり遅くなった
・立ち上がる時の動作がもたついている
・段差でつまずくことがあり、階段の上り下りを嫌がるようになった
・以前より食が細くなった、あるいは好き嫌いをするようになった
・被毛の伸びが遅くなり、皮膚の弾力が減った気がする
・下痢または便秘の回数が増えた
・以前に比べて口臭が気になる
シニア期に入った愛犬の体に不調が見られたとき、年を取っているから仕方がないとあきらめてしまうのは早計。なぜなら、なんらかの病気が症状として表れているかもしれないからです。その場合は、投薬や食事療法といった治療で元気を回復でるかもしれません。
いずれにしろ、愛犬の体調がおかしいと感じたら、まずはかかりつけの動物病院で診てもらうのが一番。いつかは必ず老衰する時が来るにしても、自力で動き回れる時間を伸ばしてあげられるかもしれないからです。
犬の死ぬ間際の末期症状7個
老衰末期の症状がみられたら、愛犬は命の終わりが近づいています。少しでも穏やかに最期の時を迎えられるよう、飼い主さんは覚悟をしておきましょう。
■1. 突然鳴く・吠えることがある
最期の時が近くなると、それまでボーっとしていた犬が突然悲鳴に近い鳴き声をあげることがあります。
犬が突然吠えたときには注意して見てあげてください。
■2. 立ち上がることができず自力で歩けない
ヨタヨタしながらなんとか歩けていた犬も、老衰末期になると、パタリと倒れたあとは自力で立ち上がることができなくなります。
無理に動かしたりしないようにしてください。
■3. 食べたり飲んだりしなくなり、何も飲み込むことができなくなる
食欲がないから食べたり飲んだりしないというよりは、最期の時が近くなると体が食事も水も受け付けなくなります。
流動食や水ですら飲み込むことが困難になりますが、無理に飲ませようとするのはよくありません。気管などに入ってしまうと、かえって苦しい思いをさせることになるからです。
■4. 体温が低くなっって触るとひんやりしている
犬の平熱は人間より高く37.5~38.5度以上。元気なときは触ると温かいですが、最期の時が近づいた犬の体温は下がっています。
耳や足先を触るといつもとは違い、ひんやり冷たく感じるでしょう。
■5. 意識が朦朧として呼びかけても反応がない
目を開けていても、意識が朦朧としているので呼びかけてもほとんど反応しません。
また、目を閉じていたとしても眠っているわけではなく、意識がない状態と考えるべきでしょう。
■6. 痙攣や震えをおこし、体がこわばる
死の間際には体を震わせたり、痙攣をおこして四肢をばたつかせることは珍しくありません。一回だけとは限らず、少しの時間を置いて複数回体が痙攣することもあります。
見た目にはとても苦しそうですが、意識がないのでもう苦しい思いはしていません。
■7. あえぐような呼吸になる
水面に浮かんだ魚のように、口をパク……、パク……とする死線期呼吸を始めたら、もうほとんど胸では呼吸をしていません。
この呼吸はもう少ししたら心臓が停止する合図で、最期の瞬間が目前に迫っています。
犬が老衰したときの回復・対処方法5個
シニアとなった愛犬に老衰の兆候がみられるようになったとしても、年だからとあきらめることはありません。飼い主さんによるちょっとした手助けが、多少なりとも老衰から回復させたり、あるいは老衰のスピードを遅らせることができるかもしれないからです。
■1. 定期的な健康診断で老衰の兆候にいち早く対処する
老衰というよりは、老化がみられるようになったら少なくとも年に一回は動物病院で健康診断を受けましょう。
老衰の兆候に早く気がつけば、それだけ対処が早くなります。
■2. 抗酸化作用の高い成分を食事に取り入れる
老化には細胞の酸化が大きく影響しています。
少しでも細胞のダメージを軽減させるために、愛犬の食事にカロテノイドやビタミンEなどの、抗酸化作用が高い食品やサプリメントを加えましょう。
■3. 血行が良くなるよう適度な運動をさせる
全身に血液が行きわたらないと体は衰えていきます。
血行を良くするためにも、適度な散歩に連れ出してあげましょう。ただし、老犬が疲れてしまうほどの運動量は必要ありません。
■4. 飼い主との楽しいコミュニケーション
老犬の脳を衰えさせない一番の特効薬は、飼い主との楽しいコミュニケーションです。愛犬に優しく話しかけながら全身のマッサージをする、あるいはブラッシングをしてあげましょう。
幸せな気持ちになった犬の脳内ではオキシトシンの分泌量が増えるため、ストレスや不安の軽減が期待できます。
■5. 犬が快適に暮らせる環境を整えてストレスを軽減
ストレスはテロメアの短縮スピードを加速させるといわれています。
愛犬に老衰の兆候が見られたら、一日の大半を過ごす寝床の環境を整え、騒音や強い光といったストレスになりそうなものは出来るだけ取り除いてあげましょう。
犬が末期症状後に生きられる時間・余命は何日?
犬が末期症状の後に生きていられる時間はそう長くはありません。
ただしこの時間には個体差があり、起き上がれなくなってから数日間生きることもあれば、わずか数時間後には息を引き取ることも。ごく稀に少し回復することもありますが、過度の期待は禁物です。
一般的に、心臓が強い犬は死線期呼吸が始まったあとも、数時間程度心臓が動き続けることがあります。しかし、もともと心臓の弱かった犬は、呼吸が止まったあと比較的早く心臓が止まる傾向にあるようです。
愛犬に老衰の末期症状がみられたら、どんなに辛くても最期の看取りについて考えておきましょう。最後の望みをかけて動物病院へ連れていくのも一つの方法ですが、もしかしたら亡くなるタイミングによっては飼い主さんが看取ってあげられないかもしれません。
動物病院の休診日や夜間について獣医さんとあらかじめ相談し、家族で見送ってあげられるように準備しておくのが一番です。
犬の最期に飼い主ができること
どんなに覚悟をしていても、愛犬との別れが辛くない飼い主さんはまずいません。しかし、愛犬と幸せな時間を過ごしてきたからこそ、いまこの時があるのです。
天寿を全うして旅立っていく愛犬に、飼い主さんが最期にしてあげられる最も大切なことは、幸せな犬として送り出すことではないでしょうか。そのためにも、愛犬を看取ったあとの供養について考えておくことは必要なのです。
息を引き取った直後は、まるで眠っているようにしか見えない愛犬の姿を目にしていると、いつまでもそばにとどめておきたくなるかもしれません。しかし、命を失った生き物の体は時間の経過とともに刻々と生きていた頃の証を失っていくのです。
だからこそ、適切なタイミングでの供養はとても大切。愛犬を看取る日が近づいたら、あらかじめペット葬儀社やペット霊園について考えておきましょう。
まとめ
愛犬が亡くなったあとのことを、積極的に考えたい飼い主さんはいませんよね。しかし、できることなら笑顔で送り出せるように準備をしておきましょう。なぜなら、犬は飼い主さんの笑っている顔がなによりも好きだからです。
犬が人間より寿命の短い生き物である以上、愛犬の死を避けて通ることはできません。しかし、大好きな飼い主さんに見送られるワンちゃんほど幸せな犬はいないのです。
だからこそ、いつか来る愛犬との別れの日から目をそらすことなく、犬が亡くなっていく過程を正しく知っておくことはとても大切なことではないでしょうか。