※ブリーダーなどペット業界経験豊富なライターが書いています。
アメリカン・スタッフォードシャー・テリアは、イギリス原産の闘犬を改良したアメリカ原産の犬という、なんだかややこしい出自の中型犬です。
日本ではあまり馴染みのない犬ですが、犬といえば中・大型犬が基本のアメリカでは昔から人気のある犬種。そして、なぜかフランスでも飼っている人が多いことで知られています。
アメリカンスタッフォードシャーテリアの特徴は?略称は?
アメリカン・スタッフォードシャー・テリア(American Staffordshire Terrier)は、「アムスタッフィー(AmStaffy)」「アムスタフ(AmStaff)」などの略称で親しまれています。
短めの被毛に覆われた体は筋骨隆々で、いかにもケンカに強そうな体つきはまさしく闘犬由来のもの。ブルドッグなどと同じように大きめの頭部はがっちりとした丸型をしていますが、マズルはやや短めで鼻ぺちゃではありません。そのため、ブルドッグより一般受けしそうな顔つきをしています。
しかし大きな口は下顎が広く、噛みつく力も咥える力もかなり強靭。様々な改良が加えられた現在もアメリカン・スタッフォードシャー・テリアは闘犬の資質を色濃く残した犬種です。
アメリカンスタッフォードシャーテリアの歴史
19世紀イギリスでは犬と熊や牛を戦わせる闘犬が盛んに行われていました。闘犬の人気がエスカレートするにつれてより強い闘犬の作出が盛んになり、数種類の犬種を交配して生み出されたのがスタッフォードシャー・テリアです。
19世紀後半、イギリスからの移民がアメリカにスタッフォードシャー・テリアを持ち込むと、アメリカ人は自分達好みに体格を大きくする改良を加えてアメリカン・スタッフォードシャー・テリアを作りました。
そしてスタッフォードシャー・テリアはスタッフォードシャー・ブル・テリアに名前を変え、別の犬種としてアメリカンケネルクラブに登録されたのです。
ただし当時のブリーダーにとって強い闘犬の作出はトップシークレット。そのため、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアのもとになったスタッフォードシャー・テリアの作出には不明なことが多いのです。
アメリカンスタッフォードシャーテリアの寿命・大きさ・体重・毛色
・寿命:約12年
・体高:オス46~48cm、メス43~46cm
・平均体重:オス25kg~30kg、メス18kg~23kg
アメリカン・スタッフォードシャー・テリアの寿命はおよそ12年。これは中型犬としては平均的です。
オスはメスより一回り大きく、ジャパンケネルクラブ(JKC)の犬種規定でも体高にはオスとメスで差があります。しかし体重に関しては体高と釣り合いが取れていなければならないとだけ記載されていて、具体的な数値は示されていません。
毛色に関するJKCの規定には「すべての色、ソリッド、パーティカラー、またはパッチは認められるが、白が80%以上やブラック・アンド・タン、レバーの犬は勧められない」と記載されています。
代表的な毛色/ブラック、ブリンドル、レッド、フォーン、ブルー、パイド、ブラック&ホワイト、タン&ホワイト等。
アメリカンスタッフォードシャーテリアとピットブルの違い
※写真はピットブルです。
アメリカン・スタッフォードシャー・テリアとアメリカン・ピット・ブル・テリアはもとは同じ犬種です。しかし歴史的な背景から二つに分かれました。
イギリスからの移民がアメリカに持ち込んだスタッフォードシャー・テリアは、アメリカ人によってより大きくより強い犬に改良されましたが、アメリカでの闘犬が法律で禁じられると、舞台が表から裏へ移ったことでより狂暴な犬が作られていきます。
その結果、本来の優秀な性質から離れた犬が増えたことから犬種分けを行いました。
・本来の気質 → アメリカン・スタッフォードシャー・ブル・テリア
・狂暴な資質が強い → アメリカン・ピット・ブル・テリア
その後、イギリスのスタッフォードシャー・ブル・テリアと区別させるために、アメリカン・スタッフォードシャー・ブル・テリアはアメリカン・スタッフォードシャー・テリアと名前が変更されたのです。
アメリカンスタッフォードシャーテリアの性格
闘犬が禁止された20世紀以降、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアはペットとして飼うために、闘犬気質を抑えるような改良が加えられました。
その結果、今では見た目のいかつさからは想像できないほど飼い主に従順で穏やかな性格を獲得しています。
しかし、だからといってしつけやすい犬になったわけではありません。
JKCの犬種解説によると「スタミナに富み勇敢で適応力と知性を持ち、闘犬としては無類の豪胆さと防衛能力を持つ犬」と書かれています。これはつまり、最悪の時代のような狂暴性は排除されたものの、闘犬としての気質を失ったわけではないことを説明しているのです。
アメリカンスタッフォードシャーテリアの飼い方・しつけ
アメリカン・スタッフォードシャー・テリアは中型犬とは思えないほど力が強く、噛む力は大型犬以上に強靭。ちょっとしたトラブルが大きな事故につながらないよう、しっかりとしつける必要があります。
◯子犬の頃からのトレーニング
防衛本能が高く、力でねじ伏せようとすると頑なになる傾向があります。子犬の頃から主従関係のけじめをきちんとつけながら、愛情深くトレーニングすることが大切です。
◯エネルギーを発散させるための運動
運動不足にならないよう、毎日1時間以上の散歩や運動が必要です。ただし、追いかけっこのように攻撃性を刺激するタイプの運動は好ましくありません。
◯知的好奇心を満たす
体力や戦闘能力ばかりが注目されますが、学習能力は決して低くありません。知的好奇心を刺激するような遊びを兼ねたトレーニングを日常生活に取り入れましょう。
アメリカンスタッフォードシャーテリアの病気・健康管理
アメリカン・スタッフォードシャー・テリアは基本的には丈夫で健康な犬といわれています。しかし遺伝性の疾患や皮膚のトラブルには注意が必要。子犬を迎える際には事前に健康診断で遺伝性の疾患について確認しておくと安心です。
かかりやすいと言われている病気は以下の7つです。
・股関節形成不全
・皮膚病
・前十字靱帯断裂
・肥満細胞腫
・進行性網膜萎縮症
・白内障
・緑内障
闘犬をルーツにしていることから痛みに強く、そのせいでケガや病気の発見が遅れることがあります。体の不調にいち早く気づいてあげられれば治療の開始が早くなり、その分だけ完治の可能性が高くなります。
こまめにブラッシングをしながら、体のすみずみまでチェックをする習慣をつけましょう。
アメリカンスタッフォードシャーテリアのトリミング・抜け毛
アメリカン・スタッフォードシャー・テリアの被毛は短毛のスムースコートです。ビロードのようになめらかな手触りのコートをしているのでお手入れは難しくありません。こまめに獣毛ブラシをかけるだけで艶やかさを保つことができますし、マッサージを兼ねたブラッシングの血行促進効果は皮膚の健康につながります。
また、短毛種のため体が蒸れにくく、体臭も強くありません。シャンプーは1ヶ月に1回程度で充分です。むしろ洗いすぎは皮膚トラブルのもと。蒸しタオルで拭き上げるだけでも体を清潔に保つことができます。
しかし、見落としがちになるのは抜け毛の問題。短毛種の犬は抜け毛が少ないように見えますが、実は一年を通してけっこう抜けています。特に春と秋の換毛期は抜け毛の量が増えますので、こまめに部屋を掃除しましょう。
アメリカンスタッフォードシャーテリアの探し方は?ブリーダー・里親
アメリカン・スタッフォードシャー・テリアの子犬がペットショップで展示販売されることはまずありません。本気で探すなら日本全国を視野に入れる必要があります。
◆ブリーダー
数は多くないですが、日本国内にはアメリカン・スタッフォードシャー・テリアのような闘犬を中心にブリーディングしている犬舎がいくつかあります。まずはインターネットで検索して、子犬が生まれているかを確認してみましょう。現在子犬が生まれていなくても、今後ブリーディングの予定があるかもしれません。
◆保護犬の里親になる
自治体の動物保愛護センターや民間の動物愛護団体に該当する犬がいれば、里親になるという方法もあります。ただしその場合は成犬を引き取る可能性が高いので、初めて犬を飼う人や小さな子どもに散歩をさせたい家庭には向きません。
アメリカンスタッフォードシャーテリアの事件
闘犬をルーツに持つこの犬種には、残念な咬傷事件が起きています。
ドイツではアメリカン・スタッフォードシャー・テリアの飼育には特別な許可が必要ですが、無許可で飼育されていた犬が52才の母親と27才の息子の二人を噛み殺しました。また、同じくドイツで生後7ヶ月の赤ちゃんが、アムスタフの雑種に噛まれた頭部の傷が元で亡くなるという痛ましい事故が起きています。
作出のもとになったスタッフォードシャー・ブル・テリアや、同じルーツのアメリカン・ピット・ブルも、同様に世界中で咬傷事故が報告されています。日本では飼育数が多くないのでピンとこないかもしれませんが、土佐闘犬が人を咬んだ事件といえばわかりやすいのではないでしょうか。
このように、闘犬を家庭犬として飼うことには重大なリスクがあることを忘れるべきではないのです。
まとめ
アメリカン・スタッフォードシャー・テリアは家庭犬にふさわしくなるよう、時間をかけて穏やかな犬に改良されました。しかし頑固な気質や力の強さが消えたわけではありません。
正しい主従関係を築ける飼い主だけが、この犬種の良さを引き出してあげられるのです。