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犬のしゃくれとは、アンダーショット――「受け口」のことを言います。犬の受け口について調べると、必ずと言っていいほど「不正咬合」という言葉を目にしますよね。
そのせいか、アンダーショットは噛み合わせが異常だと思われがちです。しかし、結論から言ってしまえば、受け口だからといって必ずしも正しくない噛み合わせとは限りません。
この記事では、犬の受け口と噛み合わせについて、詳しく解説しています。
自分の愛犬が受け口で下顎が前に出てる…
これから飼おうとしている子犬や、愛犬が受け口だった時、将来的にどの程度下顎が前に突き出すのか、心配になりますよね。
・成長とともに治るかもしれない
・酷くなると食べ物が上手に食べられないこともある
犬のしゃくれや受け口について調べると、必ずこのような内容を目にするはずです。治るかもしれない?でも酷くなったらどうしよう…。読めば読むほど、飼い主なら不安になるのは当然のことです。
しかし、実際には犬の受け口に関する情報は、断片的な内容が独り歩きしています。受け口について正しく知れば、それほど不安になる必要はないことが、すぐにわかりますよ。
愛犬の噛み合わせはどれ?セッタンやアンダーは悪いの?
犬の噛み合わせは大きく分けると4種類。ほとんどの犬種は、シザーズバイトが正常な噛み合わせとされています。
◯シザーズバイト/鋏状咬合(はさみじょうこうごう)
上の前歯の裏面に下の前歯の表面が接触している噛み合わせ。人間の正しいとされている噛み合わせと同じ。
◯レベルバイト/水平咬合、切端(せったん)咬合
上下の前歯が前後どちらにもずれていない噛み合わせ。
◯アンダーショット/下顎突出咬合
受け口、しゃくれのこと。下の前歯の裏面に上の前歯の表面が接触している、あるいは許容範囲の隙間があいている噛み合わせ。
◯オーバーショット/上顎前出咬合
出っ歯のこと。上の前歯が下の前歯より前にあり、隙間があいていて上下の前歯がまったく接触していない。
犬がしゃくれる原因4個
犬の噛み合わせがアンダーショットになる原因には、先天的なものと後天的なものが考えられます。
■1. 遺伝的要因
シザーズバイトが正常とされている犬種でも、親犬の組み合わせによっては、アンダーショットの子犬が生まれることがあります。親犬の見た目がシザーズバイトでも、アンダーショットの因子を持っていたからです。
■2. 乳歯遺残
顎が小さな小型犬は、乳歯が抜けずに残ったままの状態で、永久歯が生えてきてしまうことがあります。すると、永久歯の歯列が本来の位置から外れた状態で生えそろってしまったり、永久歯と乳歯が押し合って歯並びがガタガタになることがあります。
■3. ケガや外傷による後天的な原因
永久歯が生えそろう前に顎の骨を骨折してしまったり、顎関節を脱臼したことが原因で、顎の位置がずれることがあります。また、外傷が正常な歯の成長に影響を及ぼし、噛み合わせが悪くなるケースもあります。
■4. アンダーショットが正常な噛み合わせ
短頭犬種を親に持つミックス犬の子犬は、乳歯から永久歯に生え変わるタイミングで、噛み合わせが逆になることがあります。
上顎と下顎のどちらがより大きくなるかを幼いうちに判断するのは難しく、アンダーショットになったとしても異常ではありません。
しゃくれやすい犬種
多くの犬種はシザーズバイトが正常な噛み合わせですが、アンダーショットが標準の犬種もいます。マズルの短い鼻ぺちゃの犬種は、基本的にアンダーショットがスタンダード。むしろ、シザーズバイトはドッグショーで減点対象です。
■アンダーショットが標準とされている犬種
ブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボクサー、パグ、ペキニーズ、ボストンテリア、シーズーなど
これらの犬種のアンダーショットには、それぞれに望ましいとされる規定があります。
◯ブルドッグ
上顎より下顎が出ていて、口を閉じても下の前歯が見えるアンダーショットが標準
◯フレンチブルドッグ
下の前歯が上の前歯より必ず前にあるが、上唇と下唇で歯が完全に隠れる。
◯ボストンテリア
下の前歯がわずかに前に出ている程度のレベルバイト。
◯パグ
ほんのわずかなアンダーショット。
◯シーズー
アンダーショットが標準で歯並びの悪さは許容範囲、ただし口を閉じたときに歯と舌が見えないこと。
犬の噛み合わせで不正咬合と判断される場合
犬の噛み合わせで、不正咬合(ふせいこうごう)と判断されるのは以下の3つです。ただし、不正咬合だからといって、必ずしも生活や健康に支障がでるわけではありません。
①オーバーショットで隙間があきすぎている
②レベルバイトの犬種がアンダーショットの噛み合わせ
③アンダーショットが標準とされている犬種だが、隙間があきすぎている、あるいは問題が生じるほど歯並びが悪い
近年、小型犬の人気が高まるにつれて、レベルバイトが正常とされている犬種に、アンダーショットの犬が増えました。
特にトイプードルやミニチュアダックスフンドといった人気犬種にその数が増えたのは、アンダーショットの遺伝子を持つ親犬を使い、多くのブリーディングが行われたことが要因の一つです。
また、どんどん小型化が進んだことで、顎の大きさと歯のサイズが合わなくなっていることも、不正咬合が増えた原因と考えられています。
犬のしゃくれを治す方法3個
シザーズバイトが正常な噛み合わせの犬がアンダーショットだったとしても、生活に支障がないのであれば、特に治す必要はありません。
ただし、食べたり飲んだりするのに支障がある、あるいは噛み合わせのズレが原因で犬が痛みを感じているなら、早いうちに処置をしたほうがよいでしょう。
■1. 遺残した乳歯を抜歯
乳歯遺残を発見した時は、なるべく早めにかかりつけの獣医師に相談して、抜歯してもらいましょう。永久歯が出ているのを発見してから時間を置いてしまうと、体の成長が完全に止まってしまい、乳歯を抜いても噛み合わせが正常な位置に戻らないかもしれません。
また、乳歯と永久歯が二重歯列になった状態を放置していると、食べ物のカスが詰まりやすくなり、歯周病の原因になります。
■2. 犬の歯列矯正
動物病院によっては、歯列矯正を治療内容にしているところがあります。あまり全国的とはいえないため、まずはかかりつけの獣医師に相談してみましょう。
犬の歯列矯正は、全身麻酔をしたうえで外科治療が必要になります。矯正器具を用いた処置や抜歯により、術後はかなりの痛みを伴う可能性も。
噛み合わせの悪さが原因で犬の生活に支障が出ているなら歯列矯正は良い選択です。しかし、美観が気になっているだけなら、まずはトリミングなどを試してからにしましょう。
■3. トリミング
トリミングで受け口を治すことはできません。しかし、トイプードルやミニチュアシュナウザーのように、顔の被毛もカットが必要な犬種の場合、カットスタイル次第で受け口がまったくわからなくなります。
まとめ
シザーズバイトの犬がアンダーショットでも、生活に支障が出ることはまずありません。かなり歯列に隙間があいていても、ワンちゃんが普通に食べたり飲んだりできるなら、飼い主さんはあまり心配しなくても大丈夫です。
気をつけてあげたいのは、歯周病のケア。歯に食べ物のカスが残らないよう、こまめに歯ブラシをしてあげましょう。でもこれは、アンダーショットに関係なく、すべての飼い主さんに言えることですよね。