※ブリーダーなどペット業界経験豊富で、犬のしつけにも詳しいライターが書いています。
犬は噛む生き物です。身も蓋もない表現ですが、これは厳然たる事実。私たち人間とは違い、四足歩行の犬は手を使う代わりに口を使います。「噛む」という行為はある意味その延長でしかありません。
ではなぜ、「噛む」という行為が当たり前の犬に「噛んではいけない」と教えるのでしょうか。それは、犬と人が人間社会の中で、共に快適に暮らしていくために必要だからです。
犬が人の手や足を噛む…
ぬいぐるみのように可愛い子犬でも、細く尖った乳歯で噛まれるとかなり痛いですよね。手は傷だらけ、洋服もスリッパもボロボロ、イスの脚までガリガリ噛まれると、いくら可愛くてもさすがに「勘弁してくれ~!」となるものです。
成犬の噛みつきともなれば、事態はさらに深刻。流血どころか傷を縫うほどの大ケガを負わされることも…。万が一他人を噛むようなことにでもなれば、愛犬と暮らせなくなるかもしれません。
もしも愛犬に噛み癖があって悩んでいるなら、一刻も早く解決の糸口を探しましょう。そのためにも、犬がなぜ噛みつくのかを知り、噛みつき癖を直すにはどうしたらいいのかを考えることが大切です。
犬が飼い主を噛む理由8個
■1. 歯茎がムズムズする
子犬を迎えた飼い主さんの多くが経験するのは、生後5~6ヶ月頃の、乳歯から永久歯に生え変わるタイミングの甘噛みです。乳歯が抜ける時期が近づくと、歯茎がムズムズして気になるのでしょう。痒みのような違和感をなんとかしたくて、手当たり次第に噛みつくのです。
乳歯から永久歯に生え変わればこのムズムズは収まります。しかし、「噛む」という行為そのものを楽しむようになると、遊び感覚で噛むようになるので注意が必要です。
■2. 飼い主が喜んでいると勘違い
子犬に噛まれると、飼い主は痛みで大声をあげることがありますよね。「痛いでしょ、噛んだらダメ!」と叱った(つもりの)大声を、子犬は飼い主が楽しさのあまり興奮し、大声を出したと勘違いすることがあります。
また、子犬は愛らしい存在のため、つい優しげな口調で叱りがち。しかし、毅然とした態度をとらないままやり過ごしてしまうと、勘違いはエスカレートする一方です。噛みついた時の飼い主の反応を「遊んでいる」「喜んでいる」と勘違いした犬は、成犬になっても噛み癖が直らないことがあります。
■3. 関心を引きたい、遊んでほしい
犬は飼い主の関心を引きたいから、ガブリと噛みつくことがあります。特に子犬はありとあらゆるものに興味がある年頃。何でも口に入れて確かめたいし、飼い主にはいつでも遊んでほしくて仕方がありません。
ところが飼い主は、どんなに子犬が可愛くても、四六時中かまっているわけにはいきませんよね。かまってやれる時と、かまってやれない時があるのは仕方がないことです。
しかし、これはあくまでも人間側の都合。子犬にその理屈が通じるはずもなく、噛みつくと飼い主から反応が返ってくるので、なおさら噛みつくのです。
■4. 興奮と執着
子犬も成犬も、興奮がエスカレートし過ぎて噛みつくことがあります。本来なら子犬のうちに「噛みつくのはダメ!」「執着して噛むのもダメ!」と学習しなければなりません。
犬が群れで暮らしていた時代は、こういったことは群れの成犬が教えていました。現に今でも多頭飼育の環境下では、先輩犬が後輩犬に教える光景を目にすることがあります。
ところが単独飼育が増えたいま、他者との正しい関わり方は飼い主が教えなければなりません。ここが上手くいかないと、成犬になっても興奮のあまり噛みつく犬になりやすいので注意が必要です。
■5. 怯えによる防御反応
犬は何かに恐怖を感じた時、身を守るために噛みつくことがあります。たとえば、知らない人が可愛いからなぜようとしても、犬にその意図が通じるとは限りません。
犬の視点から見れば、馴染みのない人がいきなり頭や体に向かって手を伸ばしてくるのです。何をされるかわからない犬にとっては「怖い」以外の何ものでもない状況だと思いませんか?
これは、なにも相手が犬にとって見知らぬ人とは限りません。飼い主の行動であっても、犬がなんらかの恐怖を感じたときに、思わず噛みついてしまうことはあるのです。
■6. ストレスによる攻撃行動
犬にとって散歩は、体を動かすのはもちろん、外界の情報収集という精神的な刺激のために必要な時間です。
それらが不足すると肉体的・精神的な欲求が満たされず、強いストレスにさらされることに…。そういったストレスまみれの状況が積み重なると、これまで問題を起こしたことのなかった犬でも、攻撃的になることがあります。
また、抱き方が悪い、体の触られたくない場所を触られるといった飼い主の行動も、犬の噛みつきを引き起こす原因になるので注意が必要。飼い主に悪気はなくても、日常的に犬を不快にさせているかもしれません。
■7. 痛み
体のどこかに痛みがある犬は、飼い主が抱き上げたりなぜようとした瞬間、痛みを強く感じて噛みつくことがあります。犬は基本的には痛みに強いと言われていますが、過度の痛みには強く反応することも。
懐いている飼い主に思わず噛みつくほど痛みを感じているなら、体のどこかに重篤な原因があるはずです。噛まれたことに腹を立てる、あるいはショックを受けている暇はありません。噛みつくほどの痛みの原因を一刻も早く特定しないと、手遅れになるかもしれないからです。
■8. 脳の機能異常や疾患による異常行動
脳の器質障害や海馬の委縮など、脳の機能異常が原因で飼い主に大ケガさせるほど強く噛みつくことがあります。また、神経疾患やてんかん、内分泌疾患が原因で、異常行動を引き起こすことも。
脳の機能異常や疾患による異常行動で噛みつく場合、しつけで噛みつきをやめさせることはできません。適切な治療を受けさせ、薬物などでコントロールしないと、状況は悪化する一方になるでしょう。
犬が噛んだ時のしつけ方5個
■1. 噛んだ瞬間に犬を置き去りにして部屋から出ていく
子犬期の甘噛みを矯正する一番の方法は、噛みついた瞬間に楽しい時間を終わらせることです。どんなに楽しく遊んでいても、子犬が噛みついたら即終了。子犬だけを部屋に置き去りにし、飼い主は部屋を出ていきましょう。
これを何度か繰り返していると、子犬はだんだん理由を考えるようになります。すぐに理解できなくても、根気よく続けることが大切。
必ず甘噛みが原因だと気づき、噛まなくなります。この方法は噛みつきを止めさせるのはもちろん、飼い主のことを観察し、思慮深く行動できる犬に育てるうえでも友好です。
■2. 噛んでも良いオモチャを与える
乳歯から永久歯に生え変わる時期の子犬には、噛んでも良いオモチャをわたしてあげましょう。その代わり、噛んでほしくない場所には、しっかり対策を施します。家具や壁紙などをかじる場合は、噛みつき防止剤などをスプレーしておきましょう。
また、犬がかじりたくなる物がある場所に、犬が噛みたがらない硬いもの――金属製の箱や漬物石などを置いてガードすると、物理的に近寄れなくなるので効果的です。
■3. オヤツと執着している物を引き換えにする
犬がくわえたままのボールやオモチャを取り上げようとして、噛まれてしまう飼い主さんは少なくありません。何かに執着しすぎると、犬は飼い主のことを尊重しなくなります。
そんな時は、無理矢理とりあげようとしても逆効果。犬が自ら手放すように仕向けるのが一番です。
オモチャやボールを放そうとしない時は、大好物のおやつと引き換えにしましょう。「ちょうだい」と言われて渡したら、もっと良いものと交換してもらえると理解させることが大切です。根気よく続けると、「ちょうだい」と言われることを喜ぶようになりますよ。
■4. 体を触られるのが苦手なら、少しずつ距離を縮める
体のどこを触られても嫌がらず、進んで飼い主にお腹を見せる犬がいます。反対に、飼い主だろうと体を触られることを嫌がり、噛みついてしまう犬も…。
体を触られたくない過敏症の犬は、少しずつ体に触ることに慣れさせるしかありません。まずは触っても噛みつかない場所から練習し、少しずつ範囲を広げていきましょう。
どんな犬も足先やシッポを触られるのは好みません。こういった場所が触れるようになるまで、根気よくゆっくりと取り組むことが大切です。
■5. 運動で発散させてストレス解消
暇を持て余した犬は、いろいろな物を噛みたがるものです。そんなことをしなくてもいいように、しっかりと運動させて、心地良く疲れさせてあげましょう。肉体的、精神的に充足した犬は、気持ちよく寝てくれますよ。
散歩の時間をいつもより長くとったり、いつもは行かないルートを歩くだけでも、犬は多くの刺激を受けて精神的に安定します。身体能力の高い猟犬や牧羊犬などは、一緒にランニングしたり、アジリティーに挑戦するなどして、しっかり発散させてあげましょう。
やってはいけないNGのしつけ方3個
■1. 体罰を与える
犬に噛みつかれたとき、最悪なのは体罰を与えることです。叩いたり殴ったり蹴ったりしても、犬の噛みつきを止めさせることはできません。犬は痛みに強い生き物。痛みで何かを教えることは困難です。
中途半端に叩いたところで、かえって犬を興奮させるだけです。それどころか、飼い主を信頼できなくなり、主従関係が崩壊する原因になりかねません。犬に噛まれたら噛みつき返す飼い主さんもいますが、これも全く効果がないのでNGです。
■2. 怒鳴り散らす
大声で怒鳴り散らすことも、体罰と同様にNGです。仮に噛むのはやめたとしても、「噛んではいけない」と理解したからではありません。飼い主の大声に驚いた犬が委縮しただけで、怯えた犬に状況や理由を正しく理解させることは困難です。
また、中途半端に怒鳴り散らすと、かえって興奮してしまう場合もあります。何がいけないのかを犬に正しく理解させるには、飼い主は冷静な態度をとらなければなりません。
■3. 一貫性のないしつけ
犬をしつける時は、一貫性が大事です。犬の噛みつきをやめさせようと、昨日は部屋を出ていって無視したのに、今日は出ていかなかったらどうなるでしょうか。犬には何がいけなかったのか理解できず、しつけにはなりません。
犬のしつけは一貫性を持って徹底することがなによりも求められます。なぜなら、犬は人間のように言葉ではなく、行動を見て理解する生き物だからです。
まとめ
犬が飼い主を噛むとき、そこには必ず理由があります。まずは、なぜ愛犬が噛みついたのか、理由をじっくり考えることが大切。なぜなら、理由がわからないと噛んだ時の適切な対処法がわからないからです。
犬の噛みつきを直すとき、一番大切なのは飼い主さんがじっくり取り組むこと。遠回りなように思えても、それが一番の近道です。