※ブリーダーなどペット業界経験豊富で、犬のしつけにも詳しいライターが書いています。
どんなに愛犬が可愛くても、手や足をガブっと噛まれるのは勘弁してほしいですよね。子犬の細い歯はいとも簡単に私たちの手足に傷をつけ、時には穴をあけて流血させることもあります。
これが成犬の本気噛みともなれば、もはやシャレでは済まされません。なぜ犬は人の足や手に噛みつくのでしょうか?
犬が人の足や手を噛む理由8個
■1. 甘噛み(子犬)
子犬は遊んでほしい時やかまってほしい時などに、しつこく噛みついてくることがあります。これは「甘噛み」あるいは「遊び噛み」と呼ばれるものであり、悪意や攻撃の意図はありません。しかし噛む強さの加減できないため、飼い主の手足に傷をつけてしまいます。
犬は本来群れで生きる動物。しっかり叱りつけて加減を教えるのが普通です。しかし人に飼われた子犬の多くは、成犬と触れ合う機会がほとんどありません。
だからこそ、飼い主は群れのリーダーとして、子犬に「人の皮膚には絶対に歯を立ててはいけない」と教えなければいけないのです。
■2. 確認噛み(子犬)
子犬は未知のものに興味を持ち、ありとあらゆるものを口に入れたがります。これは私たち人間が手に取って確かめるのと同じです。口に入れることでニオイを強く感じ、さらには感触を確かめているわけですね。
しかし、子犬はありとあらゆることの経験が不足しており、口にくわえる力加減が上手くできません。その結果、思わぬ力で噛みついてしまうことは珍しくないのです。甘噛みと同様に、噛みついてよいものといけないものの違いは、飼い主となった人間が教えなければなりません。
何に噛みついたら飼い主(群れのリーダー)は怒り、何ならば噛んでもよいのかを学習することが、子犬を良い成犬へと成長させるのです。
■3. ムズムズ噛み(子犬)
生後4ヶ月~6ヶ月ぐらいの間に、子犬の乳歯は永久歯へと順次生え変わっていきます。すると歯ぐきがむず痒くなり、何かに噛みつきたい衝動にかられるのです。
だからと言って、子犬が人の手や足、あるいは家具やカーテンなどに噛みつくことを許してはいけません。この部分のメリハリをしっかりつけないと、甘噛みが癖になって厄介です。
生え変わりのムズムズ噛みで噛みつくようなら、的確に叱るとともに、噛んでもよいものをきちんと与えてあげましょう。
■4. 恐怖・不安による防御性の噛みつき
犬は何かに恐怖や不安を感じたとき、防御のために噛みつくことがあります。人の側に犬を怯えさせる意図はなくても、犬の側が恐怖を感じいれば、たとえ飼い主であろうと噛まれることになるでしょう。
この時、噛まれたことに驚いて退いてしまうと、犬は「恐怖を感じた時に噛みついたら、恐怖の対象がいなくなった」と学習してしまいます。すると恐怖や不安を感じるたびに、噛みつくことで対象を退けようとする癖がつくことに。
その結果、噛みつき行動がエスカレートし、本気噛みの癖が簡単には直らなくなるのです。
■5. 興奮によるパニック噛み
一見すると恐怖・不安による防御性の噛みつきと似ていますが、理由にはやや違いがみられます。というのも、興奮による噛みつきは、嬉しい時にも起こりうるからです。
なんらかの理由で興奮の度が過ぎてしまった時、犬は一時的にわけがわからなくなることがあります。するとパニックに陥った犬は、あたりかまわず噛みつきたい衝動にかられることに。
そして益々訳がわからなくなり、今度は八つ当たりのような感覚で噛みついてくることがあるのです。噛みついた相手が飼い主だった場合、困惑と混乱が入り混じり、より一層興奮がエスカレートするといった悪循環に陥ることもあります。
■6. ストレスによる攻撃行動
慢性的な運動不足、飼い主との触れ合い不足(愛情不足)、飼い主が群れのリーダーとして機能していない等、いろいろな原因によるストレスが、犬を攻撃的な行動に駆り立てることがあります。
また、権勢症候群(自分が群れのリーダーだと認識している)の犬は、縄張り意識や所有意識の強さから、飼い主の手足に噛みつくことは珍しくありません。
最初にきっかけはストレスによる攻撃行動で噛みついたとしても、その結果として自分の欲求が通る経験をした犬は、今度は要求を通すために噛みついてくる傾向にあります。
■7. 野生の本能が強い
犬はそもそも噛みつく生き物です。そのため、生まれ持った気質として野性の本能が強い犬は、飼い主がきちんと愛情を注いでしつけをしても、ちょっとしたことがきっかけで噛みつくことがあります。
野性の本能による噛みつき傾向の強い犬は、人の手足だけではなく、動くものすべてに対し過敏に反応することもあります。小動物を捕食したい本能で他の動物や小さな子どもに襲いかかることもあり、注意が必要。
とはいえ、犬が犬である以上、こういった本能は大なり小なりすべての犬が持つものです。愛犬の行動に野性味を感じたら、心身ともにしっかり発散させて落ち着かせましょう。
■8. 病気
脳の機能障害、突発性激怒症候群、パニック障害などの病気が原因で、むやみやたらに人の手足を噛む犬は一定数存在します。
これらの犬の噛みつきは病気による衝動のため、悪意を持ってのことではありません。また、飼い主の愛情不足や訓練不足が原因でもありません。
そのため、病気の診断に加え、今後どういった対処が必要になるかを獣医師と緊密に連携し、そのうえでの対応が求められます。
犬が噛む強さと相手で理由は違う?
子犬の甘噛みは、基本的に犬としては軽く噛んでいるつもりです。しかし成犬の本気噛みは、甘噛みとはちょっと別次元。
理由があって本気で噛みついているため、たとえ小型犬であろうと大ケガにつながることは珍しくありません。
また、犬が人を噛んだ時、相手によって理由や原因に違いがあると考えられます。たとえば人間の大人は、たいていの犬にとって自分より巨大な相手。そのため恐怖で噛みつくこともあるでしょう。
しかし、幼児や子どもの体格は犬の目に圧迫感が少なく、捕食行動や威嚇によって噛まれやすいと推測されます。
噛む理由はなんであれ、犬の噛みつきによって相手が怪我をすれば、一律に口咬事故として扱われます。だからこそ、どんな理由があろうと人間の皮膚に歯を立ててはいけないと、愛犬に教えなければならないのです。
犬が噛むときの対処法5個
■1. 犬の幼稚園やしつけ教室
子犬の甘噛みが始まったら、「噛んでよいもの」と「噛んではいけないもの」の違いを教えなければなりません。犬の幼稚園やしつけ教室なら、人に対する甘噛みの矯正だけではなく、犬同士の触れ合いから学ばせることも可能です。
人間の皮膚には絶対に歯を立ててはいけないと教えるのは人間の役目。しかし犬同士のジャレ合い加減は、犬から教わるのが一番です。
甘噛み・遊び噛みの矯正は、子犬が健全に成長するための大切なステップ。正しく社会化させるためにも、犬の幼稚園やしつけ教室の利用はとても有効です。
■2. 天罰方式
人の手足に噛みつくと嫌なことが起こる――これを天罰方式といいます。
たとえば飼い主の手足に噛みつこうとすると、犬が苦手としている金属音が鳴る、というような具合。これはかなり効果のある方法で、子犬・成犬どちらの噛みつき矯正にも使えます。
まずは空き缶に硬貨を入れたものや、ペットボトルにビー玉を入れたものを用意。そして犬が何かに噛みつこうとするたびに、ガシャっと音を立ててやめさせます。
タイミングよく音をたてられると、かなりの確率で犬は噛むのをやめるはず。愛犬の噛みつきに悩んだら、真っ先に試す価値のある対処法です。
■3. 服従訓練
「待て」「伏せ」「来い」の服従訓練は、実は犬の噛みつき防止に最も効果のある対処法です。これらのしつけがきちんと入っている犬は、むやみやたらに噛みつきません。
言い換えると、人の手足に噛みつく犬のほとんどが、「待て」「伏せ」「来い」ができていないのです。これらのしつけが正しく入っていると、犬の意識は常に飼い主に向き、その結果として無駄に興奮することがありません。
犬の噛みつきに本気で対処するなら、遠回りなように見えても服従訓練をしっかりすることが、実は一番の近道です。
■4. 充分な運動と遊びによる発散
運動不足・愛情不足の犬は、ストレスから噛みつき行動をとることがあります。愛犬に良い子でいてほしいなら、やるべきことはただ一つ。しっかり運動させて体を疲れさせ、飼い主がたくさんのスキンシップをとることで精神的に充足させるのです。
心身ともに心地よく疲れた犬は、飼い主の手足を噛む暇があったら、寝床でグッスリ眠ることを選ぶでしょう。
愛犬にやたらと手足を噛まれたり、イライラしている様子が見られたら、運動不足・スキンシップ不足になっていないか、犬との関わり方を見直さなければなりません。
■5. 噛みつきのきっかけと原因を取り除く
とても単純ですが、犬が噛みつきたくなる原因を出来る限り取り除く方法は、思った以上に効果的です。
たとえば愛犬がやたらとズボンのすそに噛みつくなら、すそ部分にマジックテープなどを巻きつけ、物理的に噛みつきにくくします。また、犬の横を通り過ぎる際に足に噛みついてくる場合は、犬の居場所を人が通らない位置に移動させましょう。
犬は習慣性の強い生き物です。なんとなく噛みついているうちに、それが習慣化してしまうことも。一度習慣になった行動を矯正するのはかなり大変。習慣にならないうちに原因を取り除く、あるいは回避することで、噛みつきを抑制しやすくなります。
まとめ
犬の噛みつき癖は、なんの対処もせず収まるものではありません。子犬のうちにしっかり甘噛み矯正をしておかないと、成犬になってから後悔することになるでしょう。
これは、犬の体格には関係ありません。なぜならたとえ極小犬のチワワだろうと、犬は骨を砕いて食べれるほどの歯とアゴを持つ生き物だからです。