※ブリーダーなどペット業界経験豊富なライターが書いています。
ミックス犬のことを調べると、必ずといっていいほど目にするのが、「両方のいいとこどり」という表現です。しかし、犬が生きている存在である以上、すべての面で「いいとこどり」になるはずがありません。
実際に、「ミックス犬はかわいそう」「ミックス犬は気持ち悪い」という声があがっています。
この記事では、「かわいい」と「かわいそう」の両方の評価がされているミックス犬について、詳しく解説します。
ミックス犬はかわいそう…気持ち悪い…
ミックス犬は可愛いと人気が高まる一方で、ミックス犬はかわいそう、気持ち悪いと思われてしまう理由はいくつかあります。
・見た目が奇抜になりそう、という理由だけで掛け合わされている
・予想より大きくなると飼育放棄される可能性がある
・目指した容姿の子犬以外は「失敗作」と呼ばれる
こういった情報を見たり聞いたりすれば、かわいそう、あるいは気持ち悪いと思う人がいるのは当然ではないでしょうか。犬があまり好きではない人からすれば、「そういうこともあるんだなぁ」ぐらいで済むかもしれません。しかし、犬好きにとっては見過ごせない話です。
ミックス犬で失敗や奇形・ブサイクは多い?
異なる純血種の交配で生まれるのがミックス犬。しかし、組み合わせは何でもOKというわけではありません。生まれてくる子犬の健全性を考えたら、最低でも守らなければいけない条件があります。
・父犬と母犬に体格差がない
・犬種特有の性質が違い過ぎない
体格差が違い過ぎる組み合わせは、そもそも自然交配が困難。人工授精の場合は大きい犬種を母親にしないと危険です。
見た目を母犬に似せたいからと、小さい犬種を母犬にした場合、胎児が奇形になりやすく、まともに育つことができません。出産までこぎつけても、死産、あるいは母犬まで命を落とす危険性が高まります。
また、個性的な見た目の犬を作り出す目的で、短頭犬種と長頭犬種のように、体の特徴が違い過ぎる犬種を交配するのも危険です。アゴの大きさと歯のサイズが合わず、歯並びがガタガタの怪物のような犬が生まれてくるかもしれません。
正しい組み合わせで交配しても、ブリーダーが望まない容姿や性質の子犬は、一定の確率で生まれてくるものです。しかし、最低でも守るべき条件を無視した組み合わせの交配は、「ブサイク」「失敗」「奇形」と呼ばれる犬を大量に生み出す可能性が高く、許容されるべきではないはずです。
ミックス犬の特徴
「ミックス犬の特徴は?」と聞かれると、「純血種にはない個性的なかわいさがある」と答える方は多いですよね。こういったイメージを持つこと自体は、何も間違っていません。
前項で述べたように「父犬と母犬に体格差がない」「犬種特有の性質が違い過ぎない」ことを前提に可愛い犬種同士を掛け合わせれば、かなりの確率で可愛い犬が生まれてくるでしょう。マルプーやシュナプーのような組み合わせは、その代表格ともいえるミックス犬です。
また、ミックス犬の特徴の一つとして、抜け毛の多いダブルコートの犬種と、抜け毛の少ないシングルコートの犬種の掛け合わせがあります。
しかし、こういった組み合わせに関しては、賛否がわかれるところ。というのも、抜け毛が少ないからミックス犬を希望するなら、そもそもシングルコートの犬種を選べばいいからです。
「ポメラニアン」を飼いたいけれど、抜け毛が多いから…。という理由でポメプーを飼うのかもしれませんが、そもそもポメラニアンの良さとは何でしょうか?フサフサのゴージャスな被毛は、ダブルコートだから実現できるはず。このように、ミックス犬の特徴には、納得できる理由と矛盾した理由が共存しています。
ミックス犬の寿命
ミックス犬の平均寿命は13~15年程度といわれています。これは小型の純血種と変わりません。ミックス犬のほうが純血種より寿命が長いといわれているのは、「雑種は強い」というイメージからくるものではないでしょうか。
実際のところ、何代にもわたってランダムに混ざり合った「真の雑種」は寿命が長くなる傾向にあります。
しかし、ミックス犬は雑種であって雑種ではありません。「純血種」と呼ばれるとても狭い範囲でブリーディングされた犬種と犬種が掛け合わさった、一代限りの「準・雑種」あるいは「準・純血種」です。「二重純血犬種」という呼び方もありますが、流通しているミックス犬の中には、定義から外れた組み合わせが少なくありません。
※二重純血犬種の定義/容貌・体格・体質など、すべてにおいて両方の犬種の良い遺伝子が子犬に受け継がれることが前提の掛け合わせ。
ミックス犬のメリット
前項までの内容を読むと、ミックス犬にはメリットがないように思われるかもしれません。しかし、そんなことはないので安心してください。ミックス犬は、組み合わせる犬種によって純血種の持つウィークポイントが消せることが最大のメリットです。
たとえば、チワワやパグなどの短頭犬種には、呼吸がしづらくなる短頭種気道症候群を発症する犬が多くみられますよね。呼吸がしにくいと、体温を上手く下げることができず、熱中症の危険性が高まります。全身に酸素が行きわたらず、体調不良の原因になることも…。
しかし、短頭種よりマズルが長い中頭種などを掛け合わせると、必然的にマズルが長めになり、呼吸がしやすくなります。もちろん、短頭種と中頭種を単純に掛け合わせればすべてOKという意味ではありません。
体格や骨格に大きな差がないことが条件になりますが、呼吸がしやすくなったパグやチワワのミックス犬は、長生きの確率が上がるはずです。
ミックス犬のデメリット
ミックス犬のデメリットは、将来的な大きさや顔立ちなど、子犬の段階ではすべてが推測でしかないことです。親犬のどちらかに性質が偏ることもあれば、見事に混ざり合うことも珍しくありません。
見た目の問題はとりあえず置いておくとして、最もデメリットになるのは、骨格と身体能力が合わないとき。片方の親から素晴らしい身体能力を受け継いだのに、もう片方の親から華奢な骨格を受け継いでいると、椎間板ヘルニアなど骨の病気を発症しやすくなります。
それを防ぐには、高い身体能力を持つ犬に運動制限をさせるしかありません。愛犬が元気に走りたがっているのに、走らせないように制限すれば、ストレスが溜まるのは想像に難くないですよね。
また、子犬の頃はシングルコートでも、成長とともにダブルコートに変化することもありますし、マズルが短くて可愛いかったのに、成長とともに鼻先が伸びることもあります。
ミックス犬は病気に強い?弱い?危険性は?
ミックス犬は純血種に比べると、病気にかかりにくい――という事実はありません。親犬がかかりやすい病気は、子どもであるミックス犬も同様に注意しなければいけないのが現実です。
両方の親犬それぞれのかかりやすい病気の因子を受け継ぐ可能性もあり、その場合は病気にかかるリスクが倍になるかもしれません。
ペット保険の年間平均診療費が純血種より安いから、ミックス犬は病気にかかりにくい――という判断がされることがありますが、少し早計ではないでしょうか。
というのも、ミックス犬の飼い主が「純血種より病気に強い」というイメージを持っているとしたら、純血種の飼い主と比較して、ペット保険に加入しない確率が高くなるからです。
ペット保険に加入していないミックス犬が動物病院を受診しても、ペット保険の利用状況に反映しません。「ミックス犬は純血種より病院のお世話にならない」という図式は成り立たないのです。
ミックス犬を飼う時の注意点
せっかく愛犬を迎えるなら、生涯にわたって楽しいドッグライフを過ごしたいですよね。そのためにも、ミックス犬を飼う時は次の点に注意しましょう。
・掛け合わされた親犬の犬種に無理がないかを考える
・親犬のサイズ、毛色、毛質を確認したうえで、最大サイズや望ましくない毛質を予想する
・親犬の遺伝子検査の有無を確認、あるいはブリーダーの情報をチェックする
・親犬の犬種がかかりやすい病気を調べる
ミックス犬は純血種とは違い、血統書が発行されません。遺伝子疾患と思われる病気を発症したら、血縁を追跡できないので病気の確定に時間がかかります。だからこそ、親犬の情報をしっかりチェックすることが大切です。
もし、あまりにもサイズの違う犬同士を掛け合わせていたり、あるいは体格が小さい方の犬種を母犬にしていたら、そのブリーディングは良いものではありません。親犬の情報を出したがらないブリーダーも、信用できないと判断するべきです。
子犬を目の前にすると、その可愛さについ目が曇りがちになりますよね。しかし家族の一員になる愛犬とは、この先長い時間をともにします。だからこそ、事前にしっかり確認しなければ、後々に後悔することになるかもしれません。
ミックス犬の売れ残りは?闇?
ミックス犬も純血種も、売れ残った子犬の行き先は、あまり素晴らしいものではありません。それでもまだ、純血種には、幸せかどうかは別にして、「繁殖用」という道が残されています。
しかし、ミックス犬には繁殖用の道もありません。売れ残った犬、売れそうにもない失敗作のミックス犬を、大切に飼育してくれるブリーダーはまずいないでしょう。
一昔前はまとめて保健所に押し付けて処分させることもありましたが、いまは保健所がそういった犬を引き取りません。となると、動物愛護団体や保護団体に預けて里親を探すという方法がありそうですが、残念ながらそこまでの労力をかけてくれるブリーダーは稀。
犬の引き取り専門業者に引き渡されたあと、売れ残ったミックス犬がどのような扱いを受けるかは、一般の人々が想像するよりずっと劣悪です。
人気のミックス犬は?
日本で人気のミックス犬には次のような種類がいます。
チワックス、マルプー、チワプー、ゴールデンドゥードル、ポンスキー、ラブラドゥードル、ポメプー、キャバプー、ポメチワ、コッカプー、ダップー、シュナプー、ポメ柴、チワマル、ペキプーなど。
まとめ
無計画な繁殖によって生み出されたミックス犬は被害者です。しかし、なぜメチャクチャなブリーディングが行われるのかといえば、購入する人がいるからではないでしょうか。
ミックス犬の存在は「悪」ではありません。そもそも純血種にしても、いろいろな犬種を掛け合わせて作出されています。
大切なのは健全なブリーディングをすること。そのためには、犬を飼いたい人が「健全なブリーディング」から生まれた子犬を選ぶことが出発点です。