※ブリーダーなどペット業界経験豊富で、犬のしつけにも詳しいライターが書いています。
犬は基本的に噛む生き物。私たち人間が手を使うように犬は口を使います。とは言え何かあるたびガブっとやるようでは、人間社会の中で暮らすにはかなり不都合。
噛まれる人間側にとって不都合という意味ですが、同時に犬が幸せに暮らせない側面も持ち合わせています。
犬が飼い主を噛む理由
子犬が噛みつく理由は、おおむね以下の4つです。
・遊んでいるつもり
・噛む行為自体が楽しい
・飼い主の気をひきたい
・歯ぐきがムズムズする
これらは基本的に甘噛みと呼ばれるじゃれつきの延長です。だからといって放置は厳禁。生後6ヶ月を過ぎる前に、飼い主が矯正しなければなりません。「そのうち噛まなくなる」などと甘く見ていると、いずれ本気噛みに移行します。
成犬が噛みつく理由は、子犬期より問題が複雑化しています。
・興奮・錯乱・恐怖による衝撃的な行動
・群れ(飼い主家族)での順位がはっきりせず、常にストレスを抱えている
・噛むことで飼い主を自分の思い通りに行動させたい
・体のどこかに痛みがあることの防御反応
・脳機能の異常
服従トレーニングの不足が原因の場合もありますが、成犬の噛みつきは生まれ持った気質が大きく影響していることも。大ケガにつながる前に、ドッグトレーナーや獣医師に相談した方がよいでしょう。
犬が噛むのをやめさせる対処法10個
■1. 服従訓練
「待て」「伏せ」「来い」は、すべての犬に必要な服従訓練です。この3つができる犬は飼い主の動向にきちんと注意を向け、興奮し過ぎることがありません。
服従訓練は子犬期に始めるのが理想。しかし成犬だからといってあきらめることはありません。子犬より時間はかかりますが、しつけは可能です。ただし、恐怖や不安を経験している分、成犬は子犬ほどすんなりとはいきません。
上手くしつけられず中途半端にやめてしまうぐらいなら、あらかじめドッグトレーナーなどプロの手を借り、しっかり服従訓練を完了させることが大切です。
■2. 噛んだら遊びは終わり
子犬は楽しくなると、興奮のあまり噛みつくことがあります。しかしそこを逆手にとり、甘噛み矯正に応用しましょう。
まずはいつも通り子犬と遊びます。しかし子犬が興奮して噛みついたら、その時点で遊びは終了。「痛い」と不快感を示し、さっと立ち上がって部屋から出ていきます。
この時のポイントは、「痛い!」と怒鳴るのではなく、低く静かな声ではっきり告げること。そして子犬が理解しやすいよう、わかりやすくムッとした表情を浮かべます。
1~2分して部屋に戻り、子犬が静かにしていたら何事もなかったように遊んでOKです。部屋に複数名いる場合、「怒られちゃったねぇ~」などと誰かがフォローするのは絶対にNG。せっかくのしつけが台無しになります。
「噛むと楽しい時間が終わる」と子犬自身が理解するには少し時間が必要。あきらめずにじっくり取り組むことが成功への近道です。
■3. 噛んでもよいものを与える
手、洋服、カーテンなどの「噛んでほしくない物」を「噛むな」と教える代わりに、「噛んでも良い物」を与えましょう。子犬が噛みついても安全な犬用のヌイグルミやオモチャで遊んでいる間は、ニコニコ機嫌よく見守ってください。
遊びに夢中になり過ぎると、興奮のあまり飼い主の手に噛みつくことがあります。そのため、オモチャで遊ばせる際は興奮しすぎないようコントロールが必要。
子犬がエキサイトしたら、いったんオモチャ遊びは中止です。「伏せ」「お座り」といった服従訓練を間にはさみ、上手にできたらたくさん褒めてください。
興奮のあまりコマンドが耳に入らない場合は、オヤツを使って注意をひきます。これが上手にできると、甘噛み矯正と服従訓練が同時にできて一石二鳥です。
■4. 噛みつき防止スプレー
犬の苦手な苦味をつける噛みつき防止スプレーはなかなか効果的です。「噛みつき防止スプレーは役に立たない」という意見もありますが、正しい使い方をしないと効果は出ません。
噛みつき防止スプレーを使う時のポイントは以下の3つです。
・初めて使う時は量をたっぷり → ケチケチ使っても効果はあがらない
・犬が噛みつきをやめるまで、しつこく同じ場所にスプレー → 次に噛んだ時に苦くないと意味がない
・犬が噛む直前のタイミングをねらってスプレー → 揮発性が高く、時間が経つと効果が弱まるため
市販の噛みつき防止スプレーには、コラーゲン配合の手に優しいタイプもあります。やる時は徹底!これが噛みつき防止スプレーで効果をあげる最大のポイントです。
■5. 不快な音
犬は突発的な音を嫌がる生き物。そこを利用して噛みつきを防止します。そこで用意するのは犬が不快に感じる音をたてる道具。
・空き缶に10円玉硬貨を10枚程度入れる
・ペットボトルにビー玉を10個程度入れる
このどちらかを用意し、犬が噛みついたらすぐに使えるよう手元に用意します。空き缶は振るとガシャガシャ大きな音がするので効果大ですが、集合住宅など大きな音がたてにくい場合はペットボトルでOKです。
準備ができたら手元に置き、犬が噛もうとしたタイミングで即座にガシャン!と音をたてます。ポイントは怒ったり怒鳴ったりせず、まるで他人事のような顔で不快な音をたてること。音と飼い主を強く関連付けないよう、知らん顔してください。
あまりガシャガシャ音を立てすぎると慣れてしまうため、ここぞというタイミングで「ガシャン!」と不快な音をたてます。
■6. 犬の安全地帯
生来の気質が臆病な犬や過去に辛い体験をしている犬は、ちょっとしたことですぐ不安になります。その不安が高じると噛みつきにつながるため、安心して過ごせる安全地帯を作ってあげましょう。
安全地帯として一番適切なのは、ケージやサークルなど周囲を囲われた空間です。狭いと可哀そうだからと、家の中を自由にさせるのは逆効果。なぜなら犬は狭くて薄暗い場所が最も落ち着けるからです。
ケージやサークルの中は、オモチャで遊んだりオヤツを食べたりと、犬にとって嬉しいことだけをする空間にしてください。おしおきで閉じ込めたり、サークルの中に入れてからガミガミ叱るような行為は絶対にご法度。それでは犬の安全地帯になりません。
ここにいれば安心する、という空間があると、不安や恐怖による噛みつきを防止しやすくなります。
■7. 心地良い疲労
基本的すぎて忘れがちですが、心地良く疲れた犬は噛みつく暇があったら寝ます。これは子犬も成犬も同じ。心と体の両面を発散させることが、噛みつき防止に役立ちます。
ただし、子犬と成犬では多少アプローチの仕方が違うので注意。
「子犬」の体は成長途中のため、過度の運動はNGです。室内を適度に走ったり歩いたりさせつつ、精神的な遊びを併用します。隠したオモチャやオヤツを探させたり、「待て」や「伏せ」などの服従訓練が最適です。体を使って遊ぶ、頭を使って遊ぶを繰り返し、心も体も気持ち良く疲労させましょう。
「成犬」は体調や足腰の状態に配慮しつつ、外に出て肉体的にしっかり発散させるのが一番。充分に時間をとって歩かせながら、においを好きなだけ嗅がせてあげましょう。また、いつもと違う散歩コースも精神的な刺激になるのでおすすめです。心身ともに充足させることが、無用な噛みつきを減らします。
■8. きっかけや不安要素の排除
犬は何度か繰り返した行動が習慣化しやすい生き物。そのため、甘噛みにしろ本気噛みにしろ、絶対に習慣化させてはいけません。
まずは犬が何に対し噛みつきやすいのかしっかり観察します。子犬が飼い主の洋服に噛みつくなら、フィットするタイプの洋服に着替えましょう。カーテンを噛もうとするなら、甘噛み強制が終わるまでカーテンが短くなるよう紐でしばり、イスの脚にかじりつくなら、子犬と遊ぶ間はイスを撤去。物理的に噛めない状況が、噛みつきの習慣化を防ぎます。
また、ケージやハウスの置き場所についても再考が必要。玄関の近くや人が頻繁に通る廊下など、犬が落ち着きにくい動線状にケージがあるなら、今すぐ置き場所を変えましょう。来訪者に怯えるタイプの犬は、見知らぬ人が視界に入りにくい場所に移します。
■9. 犬のボディランゲージを正しく理解
飼い犬に噛まれる飼い主は、犬の発するボディランゲージを正しく理解していない場合があります。たとえば……
◯噛みついたあとに手をなめてきた
「噛んでごめんなさい」と言っていそうでですが、実のところこの意味は真逆。「次にまた逆らったらこんなもんじゃすまない」と脅されています。
◯なでてほしそうに耳を後ろに倒していたので頭を触ったら噛まれた
耳を倒しているからといって、常に甘えているわけではありません。何かに緊張し、警戒しているときも犬は耳を後ろに倒します。そのような状況で不用意に体を触られると、犬は反射的に噛みつくことも。
体のどこを触られても平気な犬がいる反面、飼い主であろうと不用意に触られたくない神経過敏な犬もいます。犬のボディランゲージを正しく理解することは、犬の噛みつき防止に役立ちます。
■10. 薬物療法と行動療法の併用
持って生まれた気質として、野性味が強すぎる犬の噛みつきは簡単に治りません。どうしても手に負えないなら、まずはかかりつけの獣医師に相談し、薬物療法を検討するのも一つの手です。
薬物療法として使われるのは、主に抗うつ剤です。すべての犬に効果があるとは限らず、抗てんかん薬が試されるケースも。効果があると劇的に大人しくなりますが、問題は解決していません。薬で感情の振れ幅が小さくなっただけで、体が薬に慣れると元に戻ります。だからと言って安易に投薬量を増やせば、腎臓や肝臓を傷める原因に。
薬物療法を試す場合は、服従訓練などの行動療法との併用が絶対条件。薬に頼って行動療法を怠ると、薬が効かなくなった愛犬は投薬前より手に負えなくなるでしょう。
とは言え、薬物療法と行動療法を上手に併用すれば、効果は期待できます。薬物療法は噛みつきをなおす魔法の薬ではないと理解したうえで取り組むことが大切です。
まとめ
噛みつき防止のトレーニングを始めても、思い通りにいかないとあきらめてしまう飼い主さんは少なくありません。しかし、噛みつきは犬の本能。一朝一夕でいかないのが普通ではないでしょうか。
犬の噛みつきをやめさせるトレーニングは、飼い主と犬の関係を正しい主従関係に導いてくれるはず。だからこそ、どんなに時間がかかってもトライする価値はあります。